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2007年4月27日 (金)

城の内と外

インド旅行記はまだ続く。

前回はあまりデザインと関係のない話だったので、今回はもう少しデザイン的な話をしよう。

Gippytummyに悩まされてからは少し元気がなくなっていたが、宿泊地のニムラーナ・フォートホテルはすばらしかった。低いが急峻な山の斜面に建造された古い城塞の跡をそのままホテルに改装したのである。入り口は巨大な城門であり、夜になると大扉が閉じられてしまうらしい。城門をくぐって狭い曲がりくねった道をのぼって行くとレセプションがある。レセプションから各自の部屋に案内されるのだが、途中狭い通路を曲がりくねりながら何度も階段を上がったり下りたりするので、方向感覚が失われてしまう。迷路のようである。たどり着いたわれわれの部屋は不思議な間取りであった。入り口を入るとすぐ寝室があり、大きなダブルベッドがあった。左手に少し曲がったへこみの扉の奥にはトイレと浴室があった。ここまでは普通の西欧型ホテルである。しかし、トイレと反対側に曲がった階段があり、そこを上ると中二階のような高さに窓もドアもない小部屋があり、そこにベッドマットが敷いてあった。多分昔は召使いかボディガードが使ったのだろう。一緒に連れてきた倅が親父とダブルベッドに寝るのは嫌だといい、この召使い部屋で寝ることにした。

翌朝はさわやかな晴天であった。同行のI氏がプールサイドでモーニングティーを飲もうと誘ってくれたので倅と一緒にプールのある屋上ガーデンに行った。そこからは朝日に映えるニムラーナの村が一望でき、すばらしい景観だった。I氏の声でふと山の方を振り返ると、野生のクジャクが2羽、斜面のブッシュと城塞の屋根にとまって互いに鳴き合っていた。どうやら雄と雌らしい。写真好きのI氏は早速カメラを構えて雄が羽を広げるのを待ったが、ついに何事も起らずクジャクは去ってしまった。この城塞ホテルは土に埋まっていた遺跡を発掘してそれを改装したのだそうであるが、その複雑な城塞の構造とホテルとしての近代的機能が絶妙にマッチしたデザインなのである。ここに泊まる客はその何とも言えない不思議なエキゾティズムに魅せられてしまうのである。

レストランで朝食を摂った後、I氏の提案で城の外の街を見に行こうということになった。城門を出るとすぐ、道ばたにあった小さな店から目つきの鋭い若者が出てきて、話しかけながらわれわれと一緒に歩き出した。どこから来たのかとか、何が見たいのかとか言っているようだった。城門の外は、街というより小さな田舎村であった。道が悪く未舗装の泥道には、村の家庭排水がそのまま流れ出てきており、道の真ん中に汚水の川ができていた。ホコリだらけのトラックが荷台に一杯の荷物を積んでその汚水の川にタイヤを半分落としヨタヨタと左右に揺れながら走ってくる。汚水のハネがかからないように避けながら歩いて行くと、村人たちの視線を浴びていることを感じた。さきほどの若者のほかに次々とわれわれに付いてくる人間が増えた。私と倅は緊張で少し体を固くした。どこかで取り囲まれて金を強請り取られるのではないかと心配になったからである。しかしI氏は平然と写真を撮り続けていた。ホコリだらけの泥道の脇では、昔ながらの鍛冶屋さんがガタガタと音を立てて回っている古い機械を使って農具を作っていたりする。ずっと昔どこかで見たことのある風景であった。やがて何事もなく再び城門をくぐってフォートホテルに戻った。例の不審な付け人たちは結局われわれが城門をくぐるまで付いてきたがそこで去っていった。

ホテルをチェックアウトしてデリーに戻るクルマの中で私は考え込んでしまった。あの豪華で見事なデザインの城塞ホテルの中と、デザインの世界から忘れ去られてしまったような城外の貧しい村との信じられないようなコントラストは何だったのだろう。これは最初にデリーに着いたときに感じた、スラム街と高級住宅街のコントラストに似ているが、少し違うように思えた。あの小さな村の住人たちはカフカの小説にあるような城を毎日眺めて暮らしているのだが、それは別世界でありながら、「村の誇り」でもあるかもしれないのである。彼らはそこにやってくる外国人やインドの金持ちたちが落としていく金の幾ばくかのおこぼれにあずかることもできるし、運が良ければ城に職を得ることもできる。彼らは決して卑屈なゆすりやたかりなどではなく、堂々とお金儲けをしようとしているのである。そのような彼らの気持ちを理解することなく、付け人たちに身を固くして構えていた自分がいささか恥ずかしくなってきたのであった。

ニムラーナの城塞ホテル外観

ニムラーな城塞ホテルのプール。

ひとたび城外に出ると、このようなぬかるみの続く田舎の村。

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