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2007年5月 6日 (日)

アジアの中の日本

私にとってインドは初めてであった。これまでヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、には何度か行ったことがあるし、中国や韓国にも行ったことがある。かつて1988年に中国のハルビンに行ったときに受けたカルチャーショックは大きかったが、今回のインドでの体験はそれに匹敵するものであった。

1988年の中国は、まだいわゆる改革開放の時代が始まったばかりの頃であり、東北部のハルビンはまだ文化大革命時代の雰囲気が残っていた。表通りはクラシックなロシア風の町並みが旅行者を楽しませてくれるが、一歩裏町に入るとそこには昔ながらの生活が色濃く残っていた。私は緊張していたせいか、下痢をしてしまい、やむなく民家のトイレを借りたことがあった。レンガ造りの建物の狭い入り口をくぐって奥に行くと建物に囲まれた中庭があり、その一隅に穴が掘ってある。その上に一枚板が渡してある。案内されてそこに行くとそれは肥だめのような野外トイレであった。穴の中には汚物が貯まっており、その臭いが鼻を突いた。私は勇気を起こしてヌルヌル滑りそうなその板の上に乗って、用を果たしていた。すると、向こうから一人の男が寄ってきて、チラと私を見るとその穴の中に小便を放ちだしたのである。尻をまくって板の上で当惑している私の目の前でその男は同じ穴に中に小用を果たしているのである。この体験の印象は強烈であった。中国の民衆の実生活がどのようなものであるのかあまり考えたこともなかったので、これはカルチャーショッックであった。

しかしもう一つのショックは、中国という国は、日本にとって古代から文化的にも政治的も大きな影響を受けてきた隣の大国であり、日本にとっては「近い国」という印象があった。ところが、実際に行ってみると、人々の生活ぶりや居住の在り方が全くといってよいほどに違うことを感じたのであった。

この度のインドでの体験はそれとやや似ているが、少し違う。デリーやアグラでの体験は19年前の中国での体験と似ていたのである。しかし、ケララ州に行って、この印象は変化した。ケララ州の人たちの生活は決して豊かではなさそうであったが、その顔は、競争社会で勝つためにタカのような鋭く獲物を狙う目でもなく、競争に敗れて貧困と世の中への恨みが込められた怨念とあきらめの入り交じった目でもなかった。物静かだが決して暗くない彼らの表情は、かつて日本人もそうであったことを私に思い出させたのである。

われわれ日本人は、とかくアジアの優等生と欧米からは言われ、もっともアジアで西欧化の進んだ国であると自他ともに思ってきたことが、単純な優越意識に過ぎないということを感じさせ、その単純で、子供じみた優越意識が実はわれわれの心の中に大きな空洞を生み出していることに気づかされたのである。ケララの風土をすばらしいと感じさせたものは、実は、私の中にあるこの空洞なのだと気づいた。われわれ日本人は、あれほど惨めな戦争体験(被害者であると同時に加害者であるという)をしてきたにも拘らず、戦後の経済成長の中で新たに登場してくる便利で楽しいモノを生活の中に次々と取り込むことで、生活の在り方を変え、市場を活性化させながら「生きる」ことの意味を「モノを消費する」ことにすり替えさせられてきたのではないだろうか。さらに悪いことには、それが人類進歩の歴史的必然であるかのように思い込むようになってしまったのではないだろうか。そこにアジア各国に対する優越意識が芽生えていたのではなかろうか。

インドは決してモノの豊富な国ではないし、あらゆる意味で「豊かで便利」な生活が行き渡っている国でもない。多くの人々が貧しさから抜け出ようと必死になっているし、それが達成できずに途半ばで死んで行く人々もおそらく無数にいるであろう。中国はインドの一歩先を歩んでいるように見えるが、インドはおそらく決して中国と同じ道を歩まないであろう。「改革開放政策」後の中国が決して日本と同じ道を歩まなかったように。

これから何回かに渡って、アジアの国々と日本のデザインという視点から、われわれ日本人の失ってきたものについて少し考えてみることにしようと思う。

アレッピーの学校にて

アレッピー市街を流れる運河

バックウオーターでは運河を行く渡し船が庶民の足である。


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