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2009年4月20日 (月)

付加価値=実体のない価値(その1)

 価値と価値観の違いを隠蔽した「価値創造」の虚偽性を取り上げてきたが、ここでもう一度、最近流行の「価値創造」というキーワードの示す意味の主要部分を占める「付加価値」というものの分析をしてみよう。

 経済学的範疇としては、ある生産物(人工物)が持つ価値は、その生産に費やされた社会的に必要な平均的労働時間によって決まる値を持った客観的な概念である。つまり価値を形成する実体は人間の労働である。したがって価値は人間の労働という実体を背後に持った概念であり、それは社会に必要とされるあらゆる部門のあらゆる形態の労働に共通するという意味で抽象的に社会的な必要労働一般の費やされた量(時間)によって、社会全体に必要な労働量におけるその労働の分担率を示す指標にもなっている。つまり価値は一定の社会関係の中で意味を持つ客観的で実体のある概念である。これはスミスやリカードの初期労働価値説を批判してマルクスが抽出し得た概念である。

 商品経済社会の「完成形態」としての資本主義社会の成立によって初めてこの価値という概念が抽出し得るようになったのであるが、それは同時に、市場における価値の価格化という現実への批判を通して初めて明らかにされた概念であった。それは商品経済社会に特有な、市場における生産物の売買という形での生産物の分配・流通形態において、日々繰り返される売買行為の結果としてその価格の背後にある価値という概念が抽出されうるという事実に基づいている。

 個々の商品交換の場では、「等価交換」と見える売買で、価値ではなく価格が指標となる。価格は市場における需要と供給のバランスで決まる値を持っており、商品の売買は、その商品に買い手が期待する「効用」に対して売り手ができるだけ高い価格で売ろうとする思惑の交錯する場面で展開される。この両者の思惑の中に価値は直接姿を現さないのである。その場は買い手の「効用」に対する個人的価値観と売り手の「利潤」という市場的価値観のぶつかり合いであり、直接的には客観的根拠がない主観的価値観の合意によって売買が成立するといってよいだろう。

 このような商品市場では必ずしも人工物でないもの(例えば宝石など)が驚くほど高価な価格で売れることがある。宝石を含む鉱石を掘り出し、加工するのに要した労働よりも遙かに高い市場価格が付けられるのである。それはその商品が基本的に人工物ではない(つまり自然の産物であって人間が作り出すことができないもの)ということと、それを売り手が私的に所有しており、買い手もそれを私的に所有するということによって生じる価格である。しかし、人工物においても需要を充たす供給が困難な骨董品や有名芸術家の作品などは同様に市場で高価格となる。

 このような現象は需要を充たすだけの供給が極度に困難な商品として、商品市場において、いわゆる「稀少価値」の対象となるからであるが、それと同時にそれらがたとえ価値をはるかに超えた高価格であっても納得して買う買い手が存在するから成立する価格なのである。言い方を変えれば、それだけリッチな買い手が市場に存在し、それら稀少価値をもつ商品を彼らの価値観のもとで高価格で購入できるからこそ、そのような価格が付くのである。買い手のいない市場などあり得ない。

 実は今日言われている「付加価値」とはこの市場における「稀少価値」を意図的に生み出すための戦略であり、実際の価値にどれだけこの実体のない付加価値を上積みして、「付加価値」は市場で獲得する利潤を増やせるかという思惑を背後に持った概念なのである。限定生産商品、デザイナーブランド商品、マスコミによって扇動される地域ブランド人気商品などなど、という形で今日の社会でおなじみの販売戦略に含まれている。このような実際の価値より高い市場価格でも買い手が納得して購入するように仕向けるためのイメージ、満足感を生み出す戦略が「価値創造」と呼ばれている。実際に価値を創造するにはそれに相応しい労働時間が必要であるが、付加価値にはそれに相応しい労働時間が含まれていない。つまり実体のない価値なのである。

 このような付加価値を持った商品は買い手の個人的価値観をゆさぶり、そこに効用を認めさせることで、実際の価値より遙かに高い価格で購入させるメカニズムによって生み出されたものなのであるが、それはそのような高価な商品を購入することが可能な人々が買い手として存在するから成り立つのである。それではそのような高い商品を追いかけ回すわれわれ「消費者」は本当にそれほどリッチなのだろうか?ここに現代の資本主義社会を分析するための一つのポイントがあると考える。

 それでは、次にさらに分析を進めてみることにしよう。

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