« 2009年12月13日 - 2009年12月19日 | トップページ | 2009年12月27日 - 2010年1月2日 »

2009年12月20日 - 2009年12月26日

2009年12月20日 (日)

デザイン研究の基本的枠組みに関するメモ

 これまでにもこれに類することを書いたことがあるが、現時点でもう一度この問題をざっと捉え返してみよう。

(1)デザインは科学か?という問題について

 デザイン行為そのものは、現在という時点で何をすべきか決めなければならない実践の領域であって科学ではないが、デザイン行為をどう捉えるかを論じる視点からは科学たり得る。

(2)デザインの本質をいかに抽象するか?という問題について

 「抽象」には少なくとも2種類あり、一つは、個々に異なる現象的事実に共通する特徴を抽出することでその一般的内容を抽象する、という方法であって、もう一つは、あるがままの現実への否定的直感から出発し、これを批判することによって、その否定として本質を求める方法である。前者は抽象する主体の立場が明示的でなくある高みから見下ろす視点が暗黙の前提となっているが、後者の場合は、抽象する主体の具体的な「否定的直感」から出発し、そうではないもの、あるいはあるべきはずのものを、その背後に抽象することにより、本質を浮き彫りにするという方法である。前者と後者の違いはその本質のとらえ方の違いだけではなく、抽象する主体としての個人と抽象される側の客体としての他者および社会などとの関係の違いを明確化させる。

 例えば、デザイン行為の本質を現代という歴史的に特殊な社会での職能であるという事実を無視し、単にデザイナーの仕事に共通するかたちとして求めるのが前者の抽象であり、現代のデザイナーの仕事が持っている歴史社会的問題を自覚的にとらえることから出発し、本来あるべきデザイン行為の姿を浮き彫りにしようとするのが後者の抽象である。

(3)何をもって「創造的」というのか?という問題について

 デザイン行為の本質が創造性にあるとすれば、創造的であるかないかを判断する際の視点とは何かが問題である。デザイン行為それ自体は実践としてきわめて具体的なレベルの問題から出発し、いったん抽象度の高い段階を経て、その終わりには再びきわめて具体的な結果を出す。創造的であるかないかはそのきわめて具体的なレベルで判断されるのであって、抽象的かつ一般的レベルで創造的であるかないかは判断できない。したがってデザインが創造的であったかどうかは、結果として現れたデザインに対するその判断主体の現実的状況においてしか判断できないのである。これから生み出そうとするものが創造的であるかどうかは決してだれにも分からないし、ましてや「自動的に」創造的デザインを産出することなどは論理的にも不可能である。

(4)普遍的な意味でのデザイン行為の持つ特有なかたちについて

 普遍的な意味でのデザイン行為が、歴史的には人間のものづくり(人工物生産)に根拠を持つとすれば、人類が他の動物種と異なる特有の思考形態を獲得してきた経緯を考察する必要がある。その基底には「意図的に」あるいは「目的意識的に」思考を組み上げることができるという人間特有の思考のかたちがある。一般には「道具(手段)を用いる」と言われるこの媒介的思考のかたちは、自然的対象から自分たちに必要なモノを作り出す行為によって培われてきた思考のかたちであり、目的に対する手段の関係を計画的に組み上げることによって、望んでいたモノを実際に獲得したという経験の積み重ねによる成果であろう。これを普遍的な意味でのデザイン行為の本質と考えれば、「意図せぬ発見」や「予期せぬ要素」が創造的結果を生むのは、それが目的意識的行為の過程に取り込まれることによるのであって、デザイン行為それ自身が「予期せぬ」思考であるわけでは決してない。

(5)デザイン行為は匿名的行為としての積み重ねにこそ歴史的意義がある

 職能的デザインと普遍的デザイン行為の区別がつかない場合にもっとも犯しやすい誤りは、デザイン行為が本来個性の表出であり、それが創造性をはぐくむという考え方である。いみじくもC. Alexanderが指摘したように、デザイン行為の本質はその匿名性にあり、多くの無名の人々の長い試行錯誤の中でしっかりとそしてたしかなものとして歴史的に定着してきた「語り得ぬ質」を持った成果なのである。スター的デザイナーとなり、その名を配した商品が高額で売れるようなことは現代という特殊な歴史的時代での問題であって、決して普遍的なデザイン行為の本質ではない。

 われわれの研究対象は、デザイナーという職能のみに関係するデザイン行為ではなく、あらゆる人間労働に内在するデザイン的行為であり、社会を構成するあらゆる部門で働く人々が日々行っているデザイン的行為である。そこで無数の無名のデザイン行為がいかに創造的行為を行っているか、そのことを決して無視することはできないのである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2009年12月13日 - 2009年12月19日 | トップページ | 2009年12月27日 - 2010年1月2日 »