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2010年4月 2日 (金)

私たちは誰のため、何のために働くのか?

 日本の「経済成長率」が高かった時代、会社のために一生懸命働くことで、社会が良くなり、自分たちの生活も楽になっていくと信じていた労働者たちは、いまや、それが見事に裏切られ、自分たちの老後の生活もおぼつかなくなり、次の世代に重たい負担を掛けながら、その次の世代は一層ひどい状況で働かなければやっていけなくなっているという現実に直面している。

 そしていま企業では、入社式で、社長から、「国際競争に打ち勝つために、創意工夫をもってわが社のために働いてほしい」というメッセージが新入社員に伝えられる。新入社員たちは、おそらく、激烈な就職戦線の中で、自分を採用してくれた会社の経営陣に感謝の気持ちを持ち、「よし頑張ろう!」と思うであろう。それはそれでよいのだが、そこから先が問題である。

 現在では、かっての「高度成長期」のように会社と運命や人生をともにすることが、労働者の倫理であった時代とは異なり、自分自身が確かな倫理観や社会観を持っていれば、それを達成するために会社があるのだという考え方が一般的になってきている。しかし、現実には、労働市場は、新卒の採用における就職戦線だけに留まらず、めでたく入社できた後にも労働力商品同士の競争が待っているのである。就職戦線はまさに資本による労働力商品のランク付けであって、いわゆる「人件費」という「出費」を払っても、さらに多くの利益を会社にもたらしてくれるであろう人物を「買い取る」のであるから、その基準で人物を選別する。経営者側の言葉でいえば、「将来性」「やるき」「協調性」「健康さ」「明るい性格」などなどである。これらの指標に欠けている者は、労働力商品としての使用価値が低いとみなされ、採用されないのである。

 人間はひとりひとりがそれぞれ違う性格や資質を持って生まれてくるのであり、本来はそれを踏まえた教育によって身につけたそれぞれの固有な能力が社会で生かされるようになっていなければいけないはずである。しかし、現状では多くの若者たちが、企業が求める一定の評価指標と基準に合格するような人間になろうと努力し、自分をそのような人間に仕立て上げることを強いることになる。その結果、自分をうまく演出でき、首尾良くある一流企業に入社できたとしても、そこで毎日働くうちに段々と本当の自分が現れ出てきて、会社の中で居づらくなってくることも多い。そして、「もっとほかに自分にあった職業があるはずだ」と思うようになり、会社を辞める人が多い。その後に待っているのは、ふたたび過酷な労働市場での競争である。

 やがて、この過酷な労働市場で勝ち残ることが出来なかった人々は「ドロップ・アウト」という烙印を押され、下層労働者階級として生きのびるか、非常に確率は低いが、運良く、何か新手の職業を見つけ出せればそこに活路を見いだすことになる。しかしどちらにしても、常に競争に晒され、不安に満ちた人生を送らねばならないのである。

 一方会社に残った人達も、徐々に過酷さを増す仕事に中で、ときに自分を見失い、ただ自分の老後や家族の生活を守るために、懸命に耐えるという生活が待っているのである。

 自分が何のために生まれてきたか、何を職業とすることで、社会のためになるかを真剣に考え、親の大きな経済的負担のもとで長い教育機関を終えた若者たちが、これからどれほど手ひどく資本のもとで翻弄され、その労働力を搾取されていくかを考えると、まったく暗い気持ちになる。

 私的(現在では法人という形が多い)に所有され、利潤を上げることが前提の資本家的企業を通じてしか、社会的に必要な労働が稼働せず、機能しないという資本主義社会のもつ根本的な矛盾を克服しない限り、諸個人の能力は、労働力という商品(これもさまざまな形にメタモルフォーゼする資本の一つの形態として扱われる)として労働市場で売買され、資本家にとって使用価値の低い労働力商品は捨てられるのである。こうして労働者たちが生み出した社会的富が私的企業の利益として吸収(正確には搾取)され、それが流通し蓄積された莫大な私的財産としての資本が世界全体を流動しながら「グローバル資本」として各国の社会的生産と労働を支配しているのである。

 ここで、もう一度考えて見よう、われわれは誰のため、何のために働くのか?そしてわれわれが、われわれ自身のために働くことがなぜ出来ないのかを。

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