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2010年7月31日 (土)

お雇い経営者の報酬は非正規労働者と同じでよい

 最近、企業の経営トップの報酬額が話題になっているが、これに関する論議(例えば今朝の朝日新聞)を見ると、世の中の「オピニオン・リーダー」たちはいずれも、企業の経営者は「企業価値」を高め、企業の収益を上げた能力に応じて報酬を得るのは当然であり、問題は、従業員の給料との格差の大きさにある。つまり従業員が認める格差であれば問題がない、という考え方が主流のようだ。

 ここにはいくつかの基本的な誤認(事実の隠蔽というべきであろう)がある。第1は、企業の収益の源は誰が生み出したものなのか、という問題。第2は、経営者の能力が従業員の労働能力の何十倍何百倍とする根拠は何か、という問題。そして第3は、「企業価値」とは何かという問題、などである。

 第1の問題は、そもそも資本主義経システムにおける企業の生み出す価値額は、その企業が生産する商品を、延べどのくらいの労働者がどのくらいの時間を掛けて生み出したかによって決まるのであって、経営者一人が生み出すわけではない。経営者は、その企業で働く多くの労働者の労働の結果生み出された商品を、資本主義的な市場の中でいかにうまく実際の価値以上の価格で売りさばき、多くの利益を獲得するかにその「能力」を使うのである(当然その「能力」の中には、合理化による労働者の削減への「能力」が含まれる)。これこそ資本家の機能のすべてであり、資本家がもし労働者と同様な「労働力商品」の一つであり、彼が企業経営という「労働」を行ったと考えるならば、その労働力の再生産に必要な価値に相当する「賃金」がまともな額であろう。それは他の従業員より1円も多くはないはずである。そしてもっとも重要なことは、彼の「労働」は価値を生み出すことには全く貢献しておらず、単に、労働者が生み出した商品を市場でその価値以上の市場価格で売り抜けることに捧げられているのであって、彼は、「価値増殖」という視点から見ても、生産的労働において価値を生み出している労働者の労働に寄生した存在でしかないのである。

 第2の問題は、したがってほとんど明らかであるが、もし資本家である経営者がその「労働内容」に相応しい報酬を要求するならば、彼の従業員であるすべての労働者は、彼らが生み出した価値全体に当たる額を、つまり全剰余価値部分を含んだ商品の全価値額を経営者の報酬から差し引き、取り戻すことを要求しても少しも不当ではない。経営者の手には、商品の購買者が、価値以上の価格で買わされた商品に対して支払った貨幣額が残され、それは結局のところ誰か別の企業で働く労働者が生み出した価値を商人的に巧みな手口で自分のものとして詐取したカネなのである。だから、彼の「労働の質」が生産的労働者より何十倍も高いなどという根拠はまったくないのである。

 第3の問題は、株という形で資本を集め、それを企業経営のための資本として用いる現代の資本主義的企業においては、株が有価証券として証券市場で売買されることによりその企業の「価格」が決まり、それによって資本の回収率が左右されることになる。つまり企業それ自体が証券市場での商品として扱われているのだ。株主は収益性の高そうな企業に投資し、そうでなくなれば、そこから投資を撤退させる。市場で売買する者たちにとっては、価値と価格の違いが理解できないから、企業の証券市場における価格を「企業価値」と呼ぶ。もし仮に本来の意味で企業価値というならば、それはその企業のすべての労働者が労働によって生み出す全生産物の総価値とそこで用いられている生産手段の価値を合計したものであろう。労働そのものは価値ではなく、価値を生み出す実体であり、資本主義的労働市場において初めて労働者の能力が資本家によって「価値を生み出す商品」として見なされるようになるのだ。

 だから結局、経営者の報酬は、本来の、したがって資本主義社会ではない社会を想定しても、その社会の生産単位としての企業における「指揮官役」という労働に対しては、他の生産現場の労働者とまったく同様に、その労働時間に相当する価値額を受け取るだけであってそれ以上では決してありえない。まして、現代資本主義社会での、「経営手腕」を見込まれた「雇われ経営者」は、せいぜい非正規雇用の労働者と同じ水準の給料しかもらえなくても当然といえる。

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