«  資本論を理解するために | トップページ | デザイン労働のさまざまな形 »

2010年7月23日 (金)

デザイン労働と単純生産労働の「質」の差とは?

 さてふたたび、デザイン労働の問題に戻ろう。

 これまでの分析で、出来上がった生産物に含まれる価値のうち、直接的な生産労働が生み出した価値部分に対するデザイン労働の生み出した価値部分の比率は、生産物の生産個数が多ければ多いほど、小さくなることが分かった。

 しかし、労働力商品市場に目を転じれば、デザイナーとしての労働力は、直接的生産労働(殆どの場合、単純労働である)の労働力に比べて、はるかに高い市場価格で売ることができる。それはなぜか?

 一つは、デザイン労働力を身につけるために必要な「教育費」が単純労働者の労働力を養成する費用よりも平均的に高くつくからであり、それによってデザイン労働力の価値を若干高めているためである。もう一つは、出来上がった商品が市場に出された際に、デザイン労働が、商品の市場価格を実際の価値以上につり上げるために、直接生産労働よりもはるかに大きな影響力を資本家に対して持つからである。特に後者は、デザイン労働力の市場価格を実際の価値より高めることに貢献している。

 しかし、そのことを以て、単純な生産労働に比べて、デザイン労働の方が、質の高い労働であるというのは、早計である。

 その理由は、そもそも、誰が、何のために分業種の違いによる「労働の質の差」を問題にするのか、ということを考えれば、この問題の中身が見えてくる。それは、労働者階級の中では、上層に属する、デザイン労働者や設計労働者が、労働力の買い手である資本家に対して、それを分割された単純労働による生産労働などに比べて高い価格で売れる立場を維持したいという要求と、資本家側では、単純労働に比べてデザイン労働のような知的労働は、直接に生産手段と結合していないため、労働が生産手段に規制される度合いが少なく、その「質」を評価するための基準が見あたらないということ、そのため、すでに述べたように、デザイン労働の内容が、生産物である商品の市場価格を価値以上に保つために必須の要件であるという、資本家側の理解に基づく、両者の合意バランス点をとって形成された見方であるといえるであろう。

 しかし、実際に社会的に必要な労働として、生産物の中に結晶化される労働においては、労働の質ではなく、その平均的な労働時間という量的な面だけが価値の形成に寄与する。マルクスが、資本主義経済の発展において否定的な形で「経済法則」として労働者階級を支配している「価値法則」を批判的に分析し、その本質を抽出することによって明らかにし得た考え方が彼の労働価値説であり、そこでは価値形成実体としての本来の労働が持っている個々の内容の違いは、それが結合されてひとつの生産物として結晶化した後には問題にならず、むしろ、各労働者がそれぞれ異なる形において支出した労働が、社会的に必要な富全体を生み出すために、どれだけの量的な割合で寄与したかを示す基準として(つまり社会的な平均的労働時間として)抽象されたのである。労働の質は、生産物がその使用あるいは消費において、所期の使用価値を発揮できなかったときに初めて問題になるのであって、正常に使用価値を発揮しているときには何ら意識されることがないのである。

 だから、生産物の価値形成においては、デザイン労働も単純な生産労働もその質ではなく量、つまり労働時間がその生産に寄与した割合を示すといえるのである。しかも、直接的生産における労働過程が、効率よく大量に同じモノを生み出すという資本家的要求に従って、機械(生産手段)に従属された形で細分化され、同時にそれが労働力商品の価値を引き下げるために、どのような労働者でも簡単にできるように、単純化され、部分労働化されることで、今日の形態になったということ、そしてその生産的労働の細分化の反対の極では、資本家の意図に従って、生産物全体の姿を決めるための新たな労働種として設計労働者やデザイン労働者が登場し、その労働が、細分化された生産的労働をひとつの有機的結合労働として意義付け、生産物にまとめ上げるための支配的位置を獲得したという歴史的経緯を考えれば、同じ労働者階級としての視点からは、その労働の「質」を比較すること自体、何の意味もないことが分かるであろう。

 

|

«  資本論を理解するために | トップページ | デザイン労働のさまざまな形 »

新デザイン論」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/210651/48955431

この記事へのトラックバック一覧です: デザイン労働と単純生産労働の「質」の差とは?:

«  資本論を理解するために | トップページ | デザイン労働のさまざまな形 »