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2010年8月12日 (木)

クルーグマン教授の苦言

 以前、mizzさんがコメントで書いてた、NY Timesのクルーグマン教授のコラムが今朝の朝日新聞に紹介されていた。そこで、クルーグマン先生は、「<真っ暗になる米国> 崩れゆく社会基盤と公教育」というテーマでアメリカの現状を嘆いている。

 要は、アメリカ地方財政が非常に厳しくなっており、街頭の点灯をやめたり、道路の補修工事をやめたりする州が増え、公教育への負担を減らすために教員を解雇したり授業時間を減らしたりする州も増加している、という現実があり、その一方で、共和党や民主党の保守派のグループが、連邦政府が公共的な部門への財政支出を増やすので財政赤字が増大していることを非難し、社会の2%を占める超富裕階級の減税を維持すべきであると主張していると述べている。そしてさらにこう述べている「だが富裕層への税金を低く維持することも、ある種の景気刺激策なのだろうか?それはあなたが気付くほどのものではない。学校教育の仕事を救えば、それは疑いの余地なく雇用を支えることになる。富裕層により多くのカネを与えれば、カネの大半は役に立たないままに終わる可能性が高い。」そして保守派の非難の対象となっていたものは、実は「非常に裕福な人々を除く、すべての国民が必要とするサービスであり、政府が提供しなければならず、政府以外に誰も提供しないサービスなのだ。それは例えば、街頭のある道路、車が走ることの出来る道路、全国民への適切な学校教育、である。」と述べている。

 オバマ政権の財政政策を支える助っ人であり、プリンストン大学の教授でノーベル経済学受賞者である人の発言である。クルーグマン先生はもちろんマルクス経済学などにはまったく無関心な経済学者であり、基本的には(多分)ケインズ派の系統に属する人だと思われるが、こうした非マルクス主義あるいは反マルクス主義陣営の経済学者の目から見ても現在のアメリカ資本主義体制は明らかに行き詰まっているのである。

 ここで着目すべきなのは、政府でなければサービスできない部門(つまり完全な無政府的市場経済原理に依存した資本主義経済の本質からは賄いきれない部門)に資金が投入できなくなり、資本家間の私的な利害関係に基づくやりとり(これがいわゆる無政府的市場原理として作用する)では、どうすることも出来なくなっている社会の状況が浮かび上がっているということだ。そしてここでいう「政府」がこうした資本主義経済のもつ本質的無政府性に対するある種の補間装置としての「社会の公的コントロール機関」としての機能を託されていることが分かる。

 しかし、もちろんいまのアメリカ民主党政権が、資本主義的経済体制を否定しているなどとは誰も思ってもいない。これは行き詰まった資本主義体制をどうにか再生させるために多くの労働者階級を巻き込んで政治的な「つぎあて工作」(コンピュータ・プログラムのパッチ当てに相当する)をやっているに過ぎないと考えるべきであろう。

 クルーグマン先生が、思い直して資本論を読み始めるかどうかは、分からないが、基本的に、労働者階級が日々の労働において生み出した価値が、資本という形での私有を前提として一握りの大資本家のもとに蓄積され、労働者全体の公的な資金へと回されるはずの剰余価値を、彼らが収奪し続けられるような仕組みが合法化されている社会の矛盾にこそ根本的な問題があるということに彼が気付かない限り、彼自身も労働者階級と一緒に真っ暗なアメリカの将来へと突き進む他はないだろう。

 しかし、今日の政治状況でいきなりマルクスの主張を掲げてみてもアメリカでは絶対に受け入れられないであろうということを考えれば、百歩譲って、クルーグマン先生の主張に一応は賛意を表明しておこう。

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コメント

http://www.nytimes.com/2010/08/09/opinion/09krugman.html?ref=paulkrugman

100歩も200歩も譲って、クルーグマン先生を支持して「明るくて舗装のされた道路がなくても、教育が多少欠けようと、なんとかなる」とは思えない。とは云うようにしょう。とは思えないという政党を支持する人々が増えるだろうと期待している。とは云うことにしよう。デザイナー諸君にもこれなら、なんとかしたいと、何かを考えたくなるだろう。と期待したい。

ブルジョワ経済学の資料がマルキスト資料棚には沢山あることも教えてあげたい。マルキストの資料にもちょこっと目を向けて見れば、面白いとも。

投稿: mizz | 2010年8月12日 (木) 16時01分

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