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2010年11月 8日 (月)

マルクスの死生観と価値論の関係について

 「価値」という概念がいまほど様々勝手に解釈されている時代はなかったと言ってもよいかも知れない。経済学的カテゴリーの価値と個人の価値観を同一視するなどがその典型的な例であると思う。マルクスにおける価値の概念は、リカードなどの古典派のそれとは異なり、唯物史観の上に築き上げられている。唯物史観といえば、スターリン派が流布した悪しき「唯物論」が一般的にマルクスの唯物史観と同一視されているが、マルクスの唯物史観はそれとはまったく違う。

 例えば、私は資本論の中に出てくる次のようなマルクスの記述に衝撃を受けた。「人は一日に24時間づつ死んでいく」つまり自然の生み出した人間における死は当然生物学的な死という時間的にはある瞬間を指すのと同時に、人間的に生きることによって、一瞬一瞬現在から過去へとその痕跡を残していく歴史的な「死」なのだ。ここで人間的に生きるということの意味が人間の主体的で生産的な労働であることは明らかである。自分がこの世の中でどのような存在であり、他者との関係において、つまり社会の中でそれとして意味のある労働を、それぞれの個性において行うことが、人間的に生きることの意味であり、その労働の痕跡がつまり「死んだ労働」が他者とその結果を分け合うことで過去の労働としての意義をもち歴史を生み出して行くのである。

 生産的労働においては労働そのものだけではなく、生産手段や労働手段が必要であり、これらは大自然そのままを直接的生産手段にする以外は常に過去の労働の結果である。そして労働の源泉である労働力を生み出す生活資料も過去の労働の結果である。だからマルクスのがいうように、労働過程においては死んだ労働が生きた労働によってあらたな意義を吹き込まれるのである。

 マルクスは次のように言っている。「生きた労働は、これらの物(過去の労働の産物--引用者注)を捕らえ、よみがえらせ、単に可能的であったにすぎない使用価値から、現実的にして効果的な使用価値に、転化せねばならない。これらの物は、労働の火に舐められ、労働の肉体として取り込まれ、労働過程におけるそれらの概念および職分にふさわしい機能を吹き込まれて、消耗されるのではあるが、しかし、充分な目的をもって消耗されるのであり、生活手段として個人的消費に入りうるか、または生産手段としてあらたな労働過程に入りうる新たな使用価値の、あらたな生産物の形成要素として消耗されるのである。かくして、現在ある生産物が、労働過程の結果であるだけでなく、その存立条件でもあるとすれば、他面では、労働過程への生産物の投入が、したがって、生きた労働とのその接触が、これらの過去の労働の生産物を使用価値として維持し、それを実現するための唯一の手段なのである。」(資本論 第一巻第3編第5章より)

 こうしてマルクスにおいては、一社会においてその生産体制を維持構成する個々の労働が生み出す生産物が互いにそれを使用価値として消費しながら同時に生産していく動的な関係において初めて意味をもつのが「価値」という概念であり、それは労働生産物が生きた労働における消費によって発揮する使用価値という現在的側面と、同時にその反面で、生産物がもつ過去の死んだ労働による抽象的な意味として形成されていく「価値」の概念なのである。

 言い換えれば、生きた労働そのものが価値なのではなく、労働によって生み出された結果が価値を形成しうるのである。この区別を無視することから、資本家も労働者も労働とその結果を「自由に」分かち合い、生活しているのが近代の社会である、という虚偽の思想が生まれるのである。そしてそのような虚偽の思想のもとでは、互いに欲する物を交換し合う際に、自分が相手の持ち物に「価値」があると思えば「価値」が形成され、その人間が納得する値の価値を持つことになる、という資本主義社会特有のブルジョア的「価値観」が生み出される。そして資本主義的市場経済はすべてこのような「価値観」によって動いているとされるのである。そこから「付加価値」などという虚偽の価値論(骨董屋的あるいは美術商的価値論)も生み出されるのである。

 そこには労働の生産物を本来の使用価値として意味のある消費を行うために生産するのではなく、ただ所有し売るために生産する社会が一般化するのである。そこには、資本家によって私的に所有される過去の労働の成果を用いて「売るために作られる」商品を生産するために、つまり私有化された死んだ労働によって抽象的価値を増殖し収奪するために、労働者の生きた労働が、消費される世界が展開されるのである。

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