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2010年1月10日 - 2010年1月16日

2010年1月11日 (月)

インダストリアルデザイナーの労働が直面する諸問題 その2「エコ・デザインの行く末」

 いま、世の中の生活用商品市場は大きく二つに分かれている。一つは、リッチな人々や中産階級をターゲットとしたいわゆる「付加価値商品」の市場であり、他は低所得者階層を対象とした廉価商品の市場である。どちらもIDerの範疇にあるが、前者は主として有名デザイナーのブランド商品であることが多く、後者は日本以外のアジア諸国で働く無名のIDerの仕事が多いといえる。もちろん、いわゆるグッドデザイン商品は前者に属する。

 労働生産物の価値が、その生産に要した社会的平均的労働時間によって決まるとすれば、それが商品市場に出た際に、市場の需要供給関係で決まる市場価格はこれとは乖離していることが多い。市場での競争が激しい場合には、可能な限り価格は価値に近づくが、別な要因が入ってきて、顧客の個人的価値観に訴えて、価値より遙かに高い価格で買わせる商法が「付加価値」の正体である。もちろんこ付加価値商品のターゲットとなる顧客は、経済的に余裕のある人々である。

 付加価値商品には有名デザイナーの名前やブランドが使われる。そこでは有名デザイナー自身が実際にデザインすることは少なく、その下で働く若いIDerたちが仕事を割り振られていることが多い。付加価値商品では、さらに意図的に供給量を減らした「限定商品」として宣伝し、さらに価格をつり上げる。高ければ高いほど顧客が「ありがたがって」買うからである。

 一方、低所得者階層の人々を相手とする廉価商品デザインは、IDerも低賃金で働く人達でなければ価格競争に勝てない。したがって無名のIDer(私は彼らを「アノニマスデザイナー」と呼びたい)が長時間低賃金労働にあえぎながらなんとかこなしたデザインの商品なのである。

 多少高くてもエコな家電製品を選んで買える日本人は、まだ多少は余裕のある部類に属するのかもしれない。それでも気がついてみると、われわれの生活の中には100円ショップで買った廉価商品がどんどん増え、雑多な品々のデザイン環境の中で暮らし、年末には大量の生活ゴミの処理に苦労するという状態が常態化しているのだ。

 生活の中に根付かない生活用品。そして次から次へと買い換えることで廃棄される膨大な量のゴミ。これが額に汗して働いている、アノニマスデザイナーたちの労働の結果なのである。

 次に、エコ製品のデザインを考えて見よう。環境や資源問題に配慮することが、世の中の常識となったいま、企業はそのイメージをエコに結びつけざるを得なくなってきた。したがって、IDerもエコを看板にした商品のデザインを行うことになる。これ自体は大変結構なことなのであるが、結局は、エコを看板にした商品を大量に売りさばくことが目的であり、IDerもそれを至上命令としてデザインし、エコ・デザインが買い換え需要を促す大きな要因になっている以上は、社会的生産全体から見れば、無用な消費を拡大していることになる。

 問題は、社会的に、できるだけ無駄な生産を抑制し、消費も無用な消費をしない方向に向かうべきであるのに、資本主義生産様式ではそれが不可能であるという点であろう。人口14億もの中国や12億ともいわれるインドが、アメリカやヨーロッパと同様な「消費大国」になった場合、どうなるか、結果はすぐに想像できる。たとえ彼らすべてがエコ製品を使ったとしても、石油などの地下資源は枯渇し、資本家からの労働力需要がある間は、人口はどんどん増え続け、利益効率の良い工業製品を生産する工場がどんどん作られ、農業が衰退し、農産物は伸びず、世界的食料不足がやってくる。やがて大資本に巨額の富が集中しても、われわれの生活は破綻に追い込まれ、生活の不安を癒すための、おもしろおかしいエンタテイメント・グッズや娯楽産業が市場にあふれていても、社会の基本的インフラすら維持できなくなるときがやってくるだろう。それを想像するとゾッとする。これこそまさに崩壊しつつある資本主義社会の「腐朽的段階」いや「末期的段階」の姿である。

 つくる人と使う人が本来の目的意識を共有し、ひとつの道具や生活用品を大切に使い、流行に追われて次々と買い換える必要もなく、それらの道具や生活用品を修理しながら出来うる限り長いこと使い切る、という生活はいったいどこに行ってしまったのだろう。「サステイナブル・デザイン」の基本にはそうした生活が可能になるような経済の仕組みが前提であろう。それを抜きに「グリーン・デザイン」などと言ってみてもむなしいばかりである。

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