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2011年4月 8日 (金)

今後の日本社会を考える(その10 産業構造の矛盾b)

 ここで、経産省が公表している「産業構造ビジョン2010」という資料を参照して頂きたい( http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004660/index.html からその骨子と詳細がダウンロードできる)。 ついでに2010年1月に経団連が作った「産業構造の将来像ー新しい時代を「つくる」戦略−」( http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2010/005.pdf )も参照すると良いかもしれない(似たようなものだが)。

 明治から太平洋戦争までの日本資本主義形成期の産業構造変化の歴史は参考文献も多いのでここでは省略する。とりあえず経産省の戦略を批判するために、一気に戦後の状況から始めよう。

 ご存じのように日本の「第一次産業」の衰退は著しく、1950年代までは石炭産業、農業・漁業などは大きなウエイトを占めていたが、いまや石炭産業はなくなり農業・漁業はわずかに余命を保っているという形である。それに対して1960年代からは家電機器、カメラ、オートバイ、造船、鉄鋼などから始まって、90年代まではコンピュータ、OA機器、自動車、車両、ハイテク技術による電子部品や機器などが世界シェアで上位を占め、こうした工業部門を中心とした商品の輸出で日本の資本家たちは大いに潤ってきたし、労働者階級もそのおこぼれにあずかることができた。しかし、その間に日本の経済は急速に「海外依存型経済」の色合いを濃くしていったのである。80年代からこの好況期に蓄積した莫大な過剰資本によりだぶついたマネーが金融取引や土地取引でのマネー争奪戦を通じてバブル現象を生じ、90年代にはついにそれが崩壊した。

 そしてそれと相前後して、いわゆる「IT革命」が進行し、Web関連産業やモバイル通信産業そして高齢社会に向けての介護福祉産業や「サービス産業」などが浮かび上がり、好況期にすっかり階級意識を失って自ら「中産階級」を自認するようになった労働組合の抵抗を何ら受けることもなく、労働者雇用法の改正や規制緩和が行われて、産業構造の変化にともなう労働力の流動性が促進されることになったのである。その背後では資本の「グローバル化」によって中国やアジア諸国の安い労働力を支配しはじめた資本家的企業間の競争が激化し、その結果が現在見られるような、国内での非正規雇用やアルバイトによる労働の急増と、失業率の高止まりにも拘わらず「正規労働者」の労働過重という矛盾した状況を生み出しているのである。また生活必需品である食料や衣料は安い労働力で作られた海外製品を輸入し、国内の労働者の労働力の再生産に必要な生活資料価格を低廉に抑えることで労働賃金の上昇を防ぎ、生活に必須となった電気エネルギーの源は輸入資源である石油と危険な原子力に依存することになったのである。

 そのような現実を経産省や経団連がどのように認識しているかがこれらの資料によってよく分かる。彼らによる「日本経済の行き詰まり」とは、グローバル市場での日本企業の競争力低下や一人当たりGDPの世界ランキング低下、つまりは日本企業の利益率の海外企業のそれに比較した低さが問題なのである。

 経産省にとっては、まずは日本企業の利益率を上げること、そのために政府の役割は「国家間の熾烈な付加価値獲得競争に勝ち抜くこと」にシフトし、それによって「雇用」を増やし、労働力を確保しつつグローバル市場でのシェアを維持していこうというものである。経産省はそのための戦略として、これまでの自動車関連産業一本槍ではなく、五つの戦略分野((1)インフラ関連、システム輸出、原子力、水、鉄道など、(2)スマートグリッドや次世代電気自動車などのような環境エネルギー課題解決産業、(3)医療、介護、健康、子育てサービス、(4)ファッション、コンテンツ、グルメ、観光などの文化産業、(5)ロボット、宇宙などの先端分野)に「官・民・学」の力を結集した「八ヶ岳」方式でグローバル市場での日本企業の競争力を取り戻し、2020年には140兆円以上の市場を創出し、そこに257万人の雇用を創出しようというのである。そしてハードウエア商品中心だった貿易構造をそれら戦略分野にシフトすることでエネルギー自給率を上げるというのである。

 ここには第一次産業のことは何も出てこない。何故か?理由は簡単である。お役所の管轄が違うからである。かくして縦割り行政の日本の政府では、第一次産業は経産省の管轄する産業界からは忘れ去られているのである。

 そして無慈悲にも、2011年3月11日がやってきた。3万人近い人命が一瞬のうちに失われ、数十万世帯の人々が家や職を失った。産業界の戦略シナリオからはまず「原子力」が脱落した。それに続いて地震による破壊と電力供給力のダウンにより世界シェアの高かった東北地方のハイテク部品産業が危機に陥っており、この分野には日本企業に代わってアジアなど海外の資本が進出する好機と狙っているだろう。そしてさらに東北や関東を中心として、放射能汚染による農産物や魚介類を生産する人々が危機に陥っている。この新たな現実の前で上に示したシナリオは一体どう変わろうとしているのであろうか?

(続く)

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