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2011年5月29日 (日)

朝日新聞「ザ・コラム」をめぐって

 今朝(5月29日)の朝日新聞、オピニオンページの「ザ・コラム」にオピニオン編集長の大野博人氏が「政治の憂鬱ーコメディアンの現実主義」という記事を書いている。アイスランドの首都レイキャビクの市長選で「われわれは透明性が高い正直な政治家でありたい。わいろはテーブルの下でなはく上で受け取る。公約は守らないと正直に言っておく」と訴えて当選したコメディアンのヨン・グナール市長のことを書いている。このジョークで当選した彼が、その後市長として成さねばならない現実と直面し、ジョークどころではない悩める現実主義者になってしまっている、ということを例証にして、大野氏は、立教大学の小川有美教授のいう「政治のプロと非プロ」に分裂しているという世の中が背景にあることを指摘し、「主要政党が社会の各層や意見を代表していた時代が、冷戦とともに去った。政党は、グローバル時代のエリート層と結びついて民衆とのつながりを失っていく。グローバル化で左右というより上下に割れた社会の中で、主要政党は上にくっついてしまった、というわけだ」と述べている。そしてその結果、「民衆」から離れてしまった政治への、下からの怒りが、グナール市長のような例や右翼政党などの台頭といったさまざまな状況を生み出していると指摘し、「小さな国の小さな市長の苦闘に、グローバル時代の民主主義が抱える課題の途方もない大きさを思った」と結んでいる。

 いかにも「リベラル派」を自認する朝日新聞らしいオピニオンであるが、それゆえに、「左右」を「上下」に置き換えて、「政治のプロと非プロ」でそれらを対置させるというきわめて浅い見方しかしていない。第一、朝日はつねに「民衆」の味方というスタンスを取りながら、その実、現代資本主義社会の支配的イデオロギーを振りまいているのである。

 「民衆」と「政治のプロ」の対立という構図では何も見えてこない。要は、「現実主義」という形で「普遍化」されてしまっている政治状況の根底にあるものが何かを明らかにするべきなのだ。いまの政党が選挙で当選するために、掲げるスローガン(最近は「マニフェスト」というマルクスの「宣言」からかすめとった流行語で呼ばれているが)は、単に選挙で勝つための手段であって、当選してしまえば、そんなスローガンはどこかに吹っ飛んでしまって、どの政党も代わり映えのしない「現実主義」で政治のプロ(これは現実的には政治家ではなく官僚である)が問題を処理せざるを得ないという現実をジャーナリスト的視点で見ようとしているが、その隠れた前提となっている思想はいまでは社会常識となっている「民主的社会」とそれを支える「民衆」という図式であろう。民衆は努力さえすれば、社会的に成功することができ、社会の仕組みは民主的な選挙で選ばれる代表者によって造られる。「民衆」はだれでも選挙に立候補し当選すれば、政治を実践する立場に立てる。という図式である。

 大野氏のようなオピニオンでは、こうした図式が冷戦後「グローバル化」によって世界に浸透しつつあり、そこでの問題は結局はこのグローバルスタンダードとなった図式の内部で、それを「現実的に」解決することしかできないのだ、ということを宣伝しているに過ぎない。

 しかし、時代は、それがまさに「現代資本主義社会の支配的イデオロギー」そのものでしかない、ということを実証しつつあり、そこから脱却した視点を獲得しない限り、未来の展望が開けないところに至っているのである。

 働いても働いても、選挙で投票を重ねても社会全体としては決して良い方向に向かっていない。そして何かしら抗いがたい「市場の原理」によってわれわれの生活のすべてが支配されている。政治も経済も結局はすべて、この「市場の原理」によって動かされている。そしていつも「愚民化」され続けているわれわれ。それはつねに政治の「非プロ」という位置にわれわれを固定化する社会の構造があるからではないのか?社会のために毎日働きながら社会の本当の主人公には決してなれないわれわれ。これこそが現代資本主義社会の労働者階級の姿なのではないか?社会が「上下」に分かれているのは決していまに始まったことではない。ただ、その現実を覆い隠す「民主的社会」という虚偽のイデオロギーが世の中を支配しているだけなのではないか?われわれが求める民主主義はこれとは別のもっと普遍的な視点からの民主主義ではないのか?

 これからそういう視点で、この現代の支配的イデオロギーの矛盾を明らかにすることが必要なのであり、より普遍的な立場からのイデオロギーをわれわれがしっかりと持つ必要があるのだと思う。

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