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2011年5月24日 (火)

オレゴン・トレイル(1)

 数日前から私事でアメリカのオレゴン州ポートランドに来ている。ここはシリコンバレーなどコンピュータサイエンスに支えられたアメリカ20世紀後半の産業革命の拠点であるカリフォルニアからは少し離れているので、あまり「最先端の地域」という感じではなく、むしろ自然との交流を目的としたライフスタイルが主流のように見える。

 土曜日にはオレゴン州立大学のキャンパスでファーマーズ・マーケットが開かれ、地元の農家や小生産者が持ってきた作物や食物を露天で売り出す。なかなかの賑わいである。買いに来る客も店のあるじと顔なじみだったりして、「今日のはおいしいよ!」などという会話が飛び交っている。価格は決して安くはないが、オーガニック野菜や、肉屋さん特性のペーストなどローカル色豊かで品質のよい品物が絡んでいる。いわゆる「地産地消」の典型的な場である。すぐ近くの街のスーパーには豊富な野菜や肉を売っているが、それでもこのファーマーズ・マーケットは大賑わいである。

 この州はスポーツ用品で有名なNikeやAdidasといったブランドの大企業があり、そこが税金をしこたま払っているからであろうか、消費税はゼロなのだそうだ。市内の中心部では市電も料金がただで乗れる。少し郊外に行くと、大自然が多く残っており、マウント・フッドなどの高山や大きな滝がいくつもある。そこにサイクリングで出かけていく人も多いようだ。郊外には広大な果樹園やブドウ畑が広がり、いくつものワイナリーがある。至極住みやすそうな街である。

 しかし、この地は大陸の西からロッキーを超えてやってきた「パイオニア」たちが最初は先住民であるネイティブ・アメリカンたちに助けられて生き延び、そののち彼らを逆に追い出して住み着いてしまった地でもあるのだ。

 この地の豊かさは西からやってきた「パイオニア」たちの苦労の賜物であるとされている。しかし、この豊かな地を誰のものでもないと考えて西から来た白い人々の開拓にも手を貸したネイティブたちの世界はいまはない。今では彼らは限られた居留地の中で貧しい生活を送っている。そこは今では「治安が悪く」なかなか入りづらいところなのだそうだ。

 ネイティブたちにとって「神の座」であった白雪を頂くマウント・フッドやときどき怒り狂って火を噴くおそろしい山セントへレンズ火山も昔はまったく別の名前で呼ばれていたようだ。ネイティブたちの神々はいまどこへ行ってしまったのだろう?彼らは、ファーマーの売りに出すオーガニック・ベジタブルの中に姿を変えて入り込み、西から来た人々の口から彼らの体に入り込み、その血となり肉となっているのであろうか?

 平和で豊かに見えるこの街のそれほど古くはない成り立ちの歴史がいま埋もれて行きつつある。しかしそれは決して忘れられてはならない事実なのである。

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