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2011年7月 1日 (金)

原発労働者の賃金とカルロス・ゴーン氏の報酬から考えること

 前回のブログにmizzさんがコメントでゴーン氏に関する貴重な補足データを加えて頂いたので、ここで続編として、日産自動車のカルロス・ゴーン氏や東電の経営陣の報酬と原発事故の処理に当たっている労働者の賃金とその実態を比較検討してみよう。

 原発の事故処理に当たって東電はハローワークに「原子力発電所の清掃、修復工事の補助」「防護服や保護具などをつけて一日3時間ほどの作業」「賃金は時給1万円(3日3万円)」という広告を出して臨時雇用の労働者を求めていた。そして事故が起きる前の原発労働者の実情は以下の様であったらしい。

「ビジネスメディア誠」http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1106/14/news007.htmlというページに掲載されている「週刊東洋経済」の風間直樹記者の講演内容をそのまま紹介する。

 「東京電力の福島第1原発で事故が起きる前、地元のハローワークにはこのような求人が出ていた。「福島原発 仕事内容は原子力発電所内の定期検査・機械・電気・鍛冶溶接及び足場作業」と。日給は9000~1万1000円。原発の労働はさまざまな問題を抱えているのにも関わらず、賃金は決して高くない。むしろ「安い」と言っていいだろう。

 原発で働くにあたって、どういう条件が必要なのだろうか。求人欄を見てみると「学歴不問、年齢不問、応募資格不問、スキル経験不問」と、すべて「不問」と書かれている。まさに「身体ひとつで原発に来い」といった感じの内容だ。また事故後、他の原発の求人を見ても、内容はほとんど変わっていない。

 多くの関係者は「原発は下請け会社なしでは回らない」と語っている。原発において、電力会社の社員と下請け労働者の比率はどうなっているのだろう。2009年度のデータ(原子力安全・保安院)によると、日本の商業用原発の労働者のうち電力会社の社員は1万人弱なのに対し、下請け労働者は7万5000人。原発では、下請け労働者が圧倒的多数を占めている。福島第1原発でも、東電社員1100人ほどに対し、下請け労働者は9000人を超えていた。

下請け労働の構図を見てみると、まず東電の下に元請会社がある。この元請会社をみると東証一部上場の大企業が並んでいる。ただ実際に、原発に労働者を送り込んでいるのは、1次~8次の下請けの会社。求人票に掲載されている会社を調べてみると、ほとんどが社員数人の零細企業。原発で作業をする上で特殊な能力があるわけでなく、ごく普通の人たちが作業をしているのだ。

 さらに取材を進めていくと「なるほどな」と思うことがあった。そもそも電力会社というのは公共的な色が強いため、コンプライアンスにはうるさい……はず。なのに、東電の下には8次下請けまで存在していた。東電が行っていたことは偽装請負(契約上は業務請負であるのに、実際には人材派遣になっている状態)で、限りなく違法行為に近いのだ。

 なぜ東電は、こうした違法行為を行っていたのだろうか。地元には原発に人を送り込むだけの零細企業がたくさん存在している。こうした会社が、お互い仕事を投げ合い、地元にお金を流すスキームをつくりあげていたのだ。

 現在、公共事業の仕事が減っている。また、いわゆる“丸投げ”でお金を抜くことが難しくなっている。そうした環境の中で、電力会社は地元にお金を落としてくれる、数少ない“お得意様”になっているのだ。

 通常、原発作業の現場を取り仕切っているのは2次、3次下請けの正社員だ。2次下請けの正社員20代の男性に話を聞いたところ「原発では4次、5次以下の下請け労働者たちと働いている。特に定期検査のときには20~60代の労働者がたくさん来るが、彼らがどこの会社に属しているのか分からない」などと語っていた。4次、5次以下の下請け労働者の賃金を聞くと、ハローワークに書いてあった数字(9000~1万1000円)とほぼ同じだった。

現場で働く7次、8次下請けの労働者に話を聞くことができた。原発で働くに至った経緯を聞いたところ、ハローワークなどで申し込んだ人もいるが、地元の先輩や知り合いからの紹介という人が多い。

 ある男性は「地元の先輩から『誰でもできる即金の仕事だ』と紹介され、連れて行かれたのが原発だった」と話していた。この男性の場合、採用面接や健康診断もなく、安全教育は初日に見せられたビデオだけ。雇用契約書もなければ、社会保険も未加入……。考えてみれば、この男性は“原発で働いていた証明書がない”ことになるのだ。

 東電が行っていることは偽装請負に該当するわけだが、なぜこのことが問題視されなかったのだろうか。その理由の1つに、行政が摘発できなかったことが挙げられる。関係者に聞いたところ「労働基準監督署(労基署)が現場作業をしているところに入る場合、抜き打ち検査を行うのが当たり前だ」という。労基署の検査は厳しくて、突然やって来て、書類を確認し、労働者を集めて話を聞いたりする。なぜ抜き打ちをするかというと、会社が都合の悪いものを隠してしまうから。

 しかし原発の中は危険なので、予告監督せざるを得ない。管理者の指示に従いながら、検査しなければいけないのだ。このように“手入れ”がしにくい職場なので、長年、不正が隠されてきたのだ。

 原発では、“労災申請ができない力”が強く働いている。建設業ではよくある話であるが、そこで働いている労働者が労災申請をすれば、発注者から2度と仕事が回ってこなくなる。ただ建設業であれば、数が多いので他の職場を当たることができる。

 しかし電力業界では発注者は東電のみ。東電ににらまれれば、その地域で働くことができなくなるかもしれない不安がある。なので他の産業に比べ、“労災申請ができない力”が強いのだ。原発ではずさんな管理が行われていたのにも関わらず、労災震災は2008年度までの32年間で48件しかない。

 1988年、関西電力の高浜原発で少年3人が、労働者平均の約5倍の被ばく量となる危険な作業を行わされていた。原発(管理区域内)では未成年者の労働が禁じられているが、少年は住民票を偽造され働かされていた。その少年を斡旋したのは、京都府内の暴力団員。少年たちは4次下請けで働いていたが、暴力団に3割ほどピンハネされていた。

 30年前と比べ、原発で働く労働者の賃金水準はあまり変わっていない。報道写真家の樋口健二氏によると「15年前、東電は1人7万円の日当を出していたが、ピンハネ率は8割を超えていた」という(関連記事)。なぜ賃金水準が変わらないかというと、下請け構造があるから。

 下請けというのは各段階でお金を抜いていく。たくさんある下請けの構造を変えない限り、原発で働く労働者の賃金は変わらないだろう。」

 以上が週刊東洋経済誌の風間記者の講演内容である。

 ここで付け加えれば、特に事故後の原発労働者は積算被曝量の限界値(事故後、この基準値を厚生労働省はご都合主義的に勝手に高い値に変更したのだ!)があるため、短い時間しか働けない。彼らは、いわば命がけで、働いているのである。

 前述のカルロス・ゴーン氏は、原発事故による減産減益から驚くほど早く立ち直って、日産・ルノーグループの数十万人の労働者の生み出した剰余価値を企業の利潤として吸い上げた「手腕」に対して、その分け前の一部を9億8千万円という高額な「報酬」として受け取っているが、命がけで原発事故修復のために働く時給3万円の非正規雇用労働者の労働とどちらが重要であるか、そして日頃、原発の危険性をひた隠しながら、もっとも重要な原発運転やメンテナンスに関わる労働をできるだけ安く購入しようとしていた東電の経営陣の受ける7,200万円という高額な「報酬」(これは半額にカットされるらしいが)の意味するところを考えて欲しい。

 こんなことが「社会の常識」として通用してしまういまの社会の異常さを実感して欲しい。そして何よりも、原発が本当はいったい誰にとってもっとも必要なものだったのかを考えて欲しい。

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