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2011年10月13日 (木)

クルーグマン先生にひとまず拍手

 アメリカのノーベル賞受賞経済学者でありオバマ政権の経済ブレーンであるポール・クルーグマン博士がニューヨークタイムズ紙にコラムを連載しており、それを時折朝日新聞が翻訳して載せている。以前、このブログでも取り上げ、そこでは、マルクス経済学をかじっている私から見たクルーグマン先生の認識不足を指摘したのだが、今朝の朝日に掲載されたクルーグマン先生の「抗議運動に過剰に反撃する金持ち守護者」なる見解には拍手を送りたい。その概要は次のようである。

 最近ニューヨーク・ウオール街で起き、アメリカ全土に拡大しつつある抗議デモについて、あたかもそれが過激で危険な運動であるかのようにヒステリックに反応しているのは、超富裕層とその守護者たちなのである。ウオール街のデモを擁護する論者をロシア革命の立役者だったレーニンやトロツキーのような革命家とむすびつけて非難する連中は、実は、オバマ大統領が、経営難に陥り政府に支援されている金融企業が危険性の高い投資に関与してはならないと、金融業界を批判したときに過激に反応し、オバマ氏を「社会主義者」のようだと指弾した連中と同じである。彼らは、あまりにも少なめの税金しか支払わずにすむという抜け穴を是正する「ボルカー・ルール」の提案に対して、ヒトラーのポーランド侵攻になぞらえたり、オリバー・ホームズの「税金は、文明社会への対価である」という名言を現代風に言い換えただけのエリザベス・ウオーレン氏の発言に「中央集権的な統制の必要性を強調する集産主義者」などという誹謗中傷キャンペーンを浴びせたり、デモ参加者を「寄生先を嫌う寄生虫だ。寄生先から命を吸い取り、寄生先を破壊してしまうようなヤツ」と中傷した保守派の司会者もいる。

 真実はこうだ。ウオール街を牛耳る連中は、倫理的に自分たちの地位を正当化できないことを悟ったのだ。彼らは複雑な金融商品を売り歩くことで金持ちになったような連中だ。その金融商品は、米国の人々に利益を分配するどころか、危機に陥れた。その金融危機の余波が市民の生活を苦しめている。金融機関はほとんど無条件に納税者によって救済されたが、彼らは何の代償も払っていない。何百万ドルという所得の人が、中所得の人よりも税の負担が軽い。本当は誰が反米国人なのか?単に声を聞いてもらおうとしているウオール街の抗議者たちではなく、富の源泉に対するどんな批判をも抑圧しようとする米国の独裁者たちである。

 私としては、現在の世界的な社会経済情勢の視点からは、この意見に拍手を送りたい。しかし、一定の留保つきである。それは、クルーグマン先生が、「富の源泉」についていったいどこまで深く認識しているかである。富の源泉は、労働者による社会的必要労働であり、「富」は本質的に社会共有財である。その成果を不当に収奪し、商品市場での売り買いの自由を「普遍的自由」とはき違えた連中が、個人の「自由な」ビジネスにより獲得した利潤が富の源泉であるかのように考えるのは本質的に間違っている。それはクルーグマン先生が言うような倫理的な問題をはるかに超えて、まさに厳正な社会科学上の問題なのである。

 ウオール街で抗議運動をやっている人々や、これから東京でもそれに呼応してデモを行おうとしている人々にも、ぜひそのことを認識して欲しい。雇用の機会を与えてもらうことや賃金を上げてもらうことも必要だが、問題はそれだけでは到底済まないのである。かつてマルクスが見抜いた資本主義社会の本質的矛盾がどのようなものであり、その矛盾が現代の社会においてどのような形で引き継がれており、かつてレーニンやトロツキーがこの矛盾を克服すべく新たな社会を生み出そうとしたにも拘わらず、何故、そして何に躓いてしまったのか、そのことをいまの状況において再び思い起こすことなくしては、問題の真の解決は決してないだろうと思う。

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