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2012年5月 5日 (土)

西欧社民勢力優勢の落とし穴

 信用不安からくる不況混迷を深めるヨーロッパで、フランス大統領選挙の決着がまもなく着く。多分社会党のオランド候補が次期大統領になるだろうという大方の予測である。イギリスでは、労働党の支持者が増加している。この背景にはヨーロッパの労働者階級が、保守政権が財政赤字を埋め合わせるために進めている緊縮財政や増税でますます苦しい生活状態に追い込まれているという状況がある。これは2008-9年頃のアメリカに似ているが、事態はもっと深刻である。政府の財政赤字でユーロ不安の引き金になったギリシャやイタリア、スペインなどでは失業率が20%を越えている。労働年齢の4~5人に一人が失業していることになる。

 こうした厳しい生活状態に対して、いまの保守政権は打つ手がない。そこで労働者達は「社民勢力」に期待をよせることになる。しかし、イギリスの労働党もフランスの社会党も言うことは「経済成長による財政赤字解消と雇用拡大」である。これでは保守政権の方針とあまり違わない。結局保守政権はそれができなかったから緊縮財政と増税に走らざるを得なかったのだから。

 オランド氏は収入の多い富裕層の税率を上げると言っているが、それはそれでいいとしても、問題はすでに資本の運動は完全にグローバル化していることである。富裕層への税金から得た政府税収が、労働者階級の貧困状態を救済するために使われたとしても、それは焼け石に水一滴程度のものでしかなく、労働者階級の状態を本質的に改善することにはならないだろう。オランド氏は「経済成長」の本質が何であるのかまったく認識していないのだ。

 グローバル資本の回転は、多くの資本家たちがつねに特権的立場を維持しているわけではなく、彗星のように現れては消えていく多くの資本家の浮き沈みによって動いているのである。その間に世界中の労働者階級から吸い上げられた巨額の剰余価値による「実体資本」と、それをもとに金融資本家たちによって信用制度や投機のメカニズムを通じてねつ造される「虚妄の価値部分」を上積みさせながら激しい資本家同士の国際競争の中で次々と登場する資本の操り人形でしかない資本家たちの浮き沈み劇が演じられているのである。すでに資本家的な生産にとっては過剰となったこれらの資本は、一方で過剰な消費がなければ生きていけなくなっている。「経済成長」とはこのような過剰流動資本を増やすことでしかないのだ。そして自分たちの正当な権利であるその剰余価値部分が逆に自分たちを「資本のしもべ」にしているという資本主義社会特有のメカニズムに振り回されているのが現状の世界中の労働者階級なのである。この逆立ちした状況を正すことことこそ、問題の真の解決なのであるが、70年以上も前にマルクスの理論と決別してしまったいまの西欧社民勢力にそれを認識し実行できる政党はない。

 だからヨーロッパの労働者階級が選挙でそれら社民勢力の政党を選んだとしても必ずや裏切られる結果になるだろう。むしろその結果、ネオファシズムや国粋主義的な右翼政党が政権を握る可能性が大きくなるかもしれない。これがもっとも恐れるべきことである。そうなれば世界中の労働者階級は連帯とは正反対の方向に向かい、「国家」という階級隠蔽のための幻想共同体のために殉職させられることになるだろう。

 われわれはあの数億の労働者の命を奪った戦争という20世紀の苦い経験を忘れてはならない。欺されてはいけない。よく真実を見極めなければならない。それがわれわれの命運を分けることになるのだから。

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