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2012年7月25日 (水)

「民芸品」と「デザイン商品」の違いについて

 工業デザイナーの深澤直人氏が日本民芸館館長になられたそうである。日本民芸館はご存知の様に柳宗悦氏が設立した民芸品を収集した博物館であるが、そこには柳の「民芸」に対する思いが込められていた。まだ資本主義社会が浸透していなかった時代に生み出された無数の匿名の生活用具のもつ優れたデザインに対する驚きと賞賛の気持である。著名な作家の名前が入った作品がそれゆえに「価値」が高いとされ、商業ベースに乗る様になった近代資本主義社会の中で、それは逆にある真実を物語っていたからであろう。

 私もこの柳宗悦の思想には共感を持っている。そして深澤直人氏の「デザインしないデザイン」も好きである。深澤氏の考え方は以前、その講演を聴いて、現代のデザイナーの中ではある種特異な地位を確立した人物だと感じていた。だから彼が日本民芸館の館長になるのはある意味で当然かもしれないと思う。

 しかし、ここで一歩先に突っ込んで見ると、また違った光景が見えてくる。

 アノニマス(どこかのハッカー集団のことではない)性が取り上げられる様になったのは、工芸作品やデザイン商品などが市場で売買される近代以降になってからのことである。つまり普通に用いられる生活用品が、商品として市場で売買されるようになる以前は、ある地域社会の中で、必要とされる生活用具や食料衣類などは、ほとんど自給自足的な形で作られ消費されてきた。だからそこには生活用品を誰が作ったかということなど決して問題にはならなかった。そこでは、労働手段を含む生産手段は生活者自身のもとにあり、生活者自身が自分たちに必要な生活資料を社会的分業の中で互いに分担して生産し合い需要し合っていた。

 しかし、商品経済が全面化する資本主義社会が形成される中で、資本家により生活者から生産手段が奪われ、そのため生活者が自身の労働力を資本家に売りに出さねば生きて行けなくなり、資本家はその買い取った労働力を自分の所有する生産手段に投入し、すべての生活資料が資本家のもとで商品として生産されるようになったため、生活者があらゆる生活資料を商品として購入しなければならない社会ができあがったのである。

 その中で、作家やデザイナーの名前が付されることによって、高い市場価格で売買される、高級生活用品が登場し、ほとんどの工芸作家やデザイナーはそのような高価な高級生活用品を市場に送り出すために仕事をすることになり、自分の名前(あるいは自分が雇用されている企業)のついた商品が「グッドデザイン商品」として市場に登場する様になることが大きな目標になったといえる。

 しかし多くの平均的水準の生活者にとってそれらの高価な「グッドデザイン商品」は高嶺の花であり、ほとんどの生活用品はディスカウント・ショップなどで売られている名もない企業内デザイン労働者(現代のグローバル資本主義社会においてはほとんどが労働賃金の安い国の企業に雇用されたデザイン労働者)の生み出す量産商品で賄うしかないのである。

 こうした矛盾に充ちた社会で、それに気づいた人々から見ると、初めてそこに、かつての「民芸品」が輝かしい匿名デザインの世界であるという思いが生まれてくるのであろう。

 残念ながら深澤直人氏のデザインは、確かに優れてはいるが、「フツーの生活水準」にある大多数の人々にとっては「高嶺の花」なのである。「無印商品のデザイン」が一つのブランドになってしまうという、笑えぬ皮肉が現代社会の矛盾を象徴している。

 かつての民芸品の様な優れたアノニマス・デザインを社会全体が生み出すことができるようになるためには、少なくともわれわれが普段の生活で必要とする食料・衣料そして生活用具を、われわれ自身が(社会的共有財として)持つ生産手段によって、したがって自分の労働力を売りに出さなくとも、自らそれを生み出せるような生産体制が必須であるといえる。

 そこにおいては、資本主義社会のように生活用品を生み出す目的が「売るため」であり「必要」はその手段でしかないというのではなく、直接必要を満たすことが目的となり、それを生産物として生み出すための労働過程を取り戻すことによってデザイン行為が健全さを取り戻し、デザイン行為が一職能によって独占されたものではなく、あらゆる社会的分業種の中で労働する人々がもつ普遍的能力として、つまりアノニマスな労働過程の一環として捉え直されるようになるのだと思う。

 そして、実はマルクスが考えていた未来社会はそのような社会であるといっても間違いではないだろう。だから私は、そのような本来あるべきデザインを実現させるためには、マルクスの考え方を理解することが必須だと考えている。

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