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2012年10月18日 (木)

マルクス経済学のキーポイント(3 資本の再生産における奢侈品生産)

 マルクスが初めてあきらかにし得た、価値の本質と、その形態については、何度かこのブログで書いたので、省略するが、その価値論はそれによって資本家的商品のさまざまな様態の分析を可能にした。そのもっとも重要な分析の一つに、社会的総資本の再生産過程の分析がある。

 いま年間に資本が生産する商品のすべて(商品形態での社会的総資本)を考えると、それが次年度も同様に社会的総資本として維持され得る(単純再生産)ためには、商品形態の総資本を生産手段部類と生活手段部類に分けて考えれば、次のような関係がなければならない。

  I (v+m) = II c ここで、I は生産手段部類、II は生活手段部類であり、c は不変資本部分、v は可変資本部分、m は剰余価値部分である。生産手段部類の可変資本部分と剰余価値部分の和(I 部類で労働者が新たに生みだした価値部分)が、生活手段部類の不変資本部分( II 部類の生産に必要な生産手段部分)と等しくなるということである。

 このことは、I 部類の生産物である生産手段の一部( Ic )が、その部類の資本家自身の生産手段として用いられるとともに、残りの部分( I (m+v) )は I 部類の資本家と労働者の生活資料として、II 部類の生活手段商品の一部( IIc )と貨幣を媒介にして交換され、II 部類の生産物の残りの部分( II (v+m) )は、II 部類の中で労働者と資本家の生活資料として供給されるということである。こうして、互いに需要されるものを供給する関係において、社会的需要が充たされるという事を示している。

 そして総資本が年々拡大再生産を行うためには、I (v+m) > II c という関係が成り立たねばならない。言い換えれば、資本が拡大再生産を続けるためには、生産手段部類の生産物の労働者によって新たに生みだされた価値部分が、生活手段部類の生産物における生産手段(不変資本)部分の価値より常に大きくなければならないということであり、生産手段としての生産物がまず増加しなければならないことを示している。

 ここで、いわゆる奢侈品の生産について考えてみれば、つぎのように言える。たとえ、単純再生産という形においても、奢侈品は生産され、資本家自身が彼の収入として獲得した剰余価値部分とそれらを交換する。奢侈品は再生産に結びつくことなく、資本家の趣味や楽しみを実現するため、彼の財産の一部でその生産が賄われているということである。

 このことは、II 部類の生産物を生活必需品( IIa )と奢侈品( IIb )という二つの亜部類に分けて考えれば、そこに、IIa (m) > IIb (v) のという関係が成り立っていることになる。つまり、II 部類の生産物のうち、労働者が生みだし、資本家がまるごと獲得する IIa (m) 部分と、資本家のために奢侈品を生産する労働者の生活費部分 IIb(v) が交換されるのであって奢侈品生産の労働者の賃金はつねに資本家の剰余価値部分より小さくなる、ということである。

 ところで、20世紀後半の「先進」資本主義国では、労働者の「所得」も大幅に増え、奢侈品を買えるようになった、と解釈する資本家的視点は全くの虚偽である。事実は、労働者がいわゆる「可処分所得」によって奢侈品を買うのではなく、彼の生活資料の一部が「疑似奢侈品化」したに過ぎないといえるのである。

 労働者の賃金が高騰し、高価な家電製品やクルマなどを購入することが普通の生活となり、レジャーや観光にも支出できるようになったいう風に見るのは、あまりに単純である。労働者の賃金は、「労働力の価値」としてそれを再生産するに必要な生活資料の価値と同じだけ資本家が労働者に前貸した貨幣に過ぎないものであって、この貨幣は、疑似奢侈品的生活資料商品を生産販売する資本家の手に環流し、上記で述べたように、結局は資本家階級のもとにも戻るのである。

 資本主義社会においては、労働者は剰余価値部分を資本家と同じ意味での「収入」として獲得することは決してない。「収入」として見える労働賃金はあらかじめ資本家の手に環流することが約束された貨幣なのであって、現代の労働者階級は、一見高い給料に見える賃金を、高級家電製品やクルマそして住居という「高価な」生活資料を得るためにそれらを生産する資本家に渡すのである。

 現代の資本主義社会では、いわゆる生活必需品と本来の奢侈品の区別が付きにくくなっている。資本家たちはその収入の一部を本来の奢侈品購入に投じ、残りは資本の再生産過程にこれを投じるのである。しかし、労働者階級は、その賃金で、奢侈品に見える疑似奢侈品的生活資料を購入し、そのすべてを資本家たちの新たな収入源として提供することで生活しているのであって、労働者がそれを資本として投資するために獲得するのではない。

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