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2012年10月20日 (土)

マルクス経済学のキーポイント(4 過剰資本の処理とものづくり産業の衰退)

 前回述べたように、資本主義生産様式の内部で、つねに生産されもっぱら資本家の趣味のために消費される本来の奢侈品と、それとは本質的に異なる、労働者階級の生活資料の疑似奢侈品化が混在するのがいまの資本主義社会である。

 マルクスの時代には、今日のような労働者階級が「中間層化」したように見えることはほとんどなかったと見てよいであろう。それは、あたかも労働者階級が資本家の獲得した利益の分け前を頂戴し、それによって「豊かな生活」を維持しているように見せながら、実は相変わらず労働者階級は自らの労働力を「売り」に出さねば生活できない「賃金奴隷化(本来の奴隷と異なり労働者そのものが売買されるのではなく労働者は<自由な>存在でありながらその労働力を売りに出さねば生活できないという意味で)」した状態に置かれていることに変わりはない。
 欧米の資本主義社会では、20世紀中葉には、投資した資本が期待される利潤を生みだし得ない過剰資本と化して、もはや従来のままで拡大再生産できなくなってしまったとき、その過剰資本のはけ口として、労働者階級の生活資料の拡大生産に活路を見いだしたのである。
 つまり前述した、社会的総資本の再生産過程で、あえて II (v) 部分を増大させることにより、一見 m/v で表される搾取率(剰余価値率)が下がったように見せて実はそれによる  IIc 部分の増加を通じて、I(m+v) 部分を増加させるということにより、結局は、全体として資本の拡大再生産を維持していけるという方向に舵を切ったのである。
 そのために、資本家たちは、労働者階級に前貸しする資本 v を増やし、それによって労働者階級の生活資料「購買力」を強化させ、生活資料商品の拡大生産を通じて、生活資料商品を生産する生産手段部分(II c)の生産を増加させ、その生産手段を供給するI 部門をも拡大させることによって、資本全体としての拡大再生産を維持しながら過剰資本を処理することになったのである。
 だからいまの資本主義社会では、II v 部分が資本家にとって、m/v の許容範囲を超えない程度で増加しても、それを再び環流させることができ、そのために労働者階級に生活資料商品を疑似奢侈品化し、大々的な宣伝広告によって、その購買を促進させようとするのである。
 こう言うと、過剰資本の処理が生産的な資本に結びつくのであればそれはもはや過剰資本とは言えないのではないかという疑問が生じるかも知れない。しかし、ここでの「生産的資本」から生みだされる商品は、過剰消費(浪費)を促進させると言う意味での「生産的」なのであって、またその過剰消費を促進させるための宣伝広告なども当然、本来の意味からは「生産的」とは言えないものである。
 しかし、さまざまな原因でこの II v の水準が m/v の許容範囲を超えてしまうと、たちまち過剰資本の圧迫に苦しめられることになる。そこで資本家たちは、生活資料の生産を自国内ではない、より労働賃金の安い国々で生産する方向に転じ、それによって実質的に  IIv 部分を引き下げようとするのである。しかしこれにより、自国内での生活資料生産が圧迫され、その領域での労働者階級や農業労働者をその分野から放逐することとなり、失業率が増大するのである。
 その一方で、海外の安い労働力を買うために、国際的な資本の流動化が必要となり、いわゆる「資本のグローバル化」が常態化する。自国内で行き詰まった資本主義生産体制を資本のグローバル化という形での国境を越えた総資本の再生産としてとらえ直すことが問題となるのである。そしてかつて「ものづくり大国」であった日本もいまや「ものづくり」はアジアやアフリカなどの労働賃金の安い国々で行われるようになり、出来上がった安価な商品を国際市場に売りに出すことで利益を獲得している商業資本や、国際流動資本を右から左へと動かすことで利益を獲得する金融資本が資本家階級の頂点に置かれ、「ものづくり」産業から放逐された労働者階級は、生産企業ではなく、金融業、販売流通、広告宣伝やレジャー観光などの「不生産的」産業へと吸収されていくことになったのである。
 もはや総資本の拡大再生産表式( I(v+m) > IIc )は一国内でなりたつ関係ではなくなっており、v 部分を引き下げるための生活水準の低い国々への生産拠点の移動や、国際的為替レートの変化による輸出入のコントロールなどによってなんとか成り立っているのである。そのいみで資本は国境を越えた膨大な消費の拡大とそれをテコとした労働者階級の支配によって( I(v+m) > IIc )をかろうじて維持しながら何とか生き延びているのである。

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