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2012年11月10日 (土)

アメリカ大統領選挙後の争点を巡って

 アメリカ大統領選挙は民主党オバマ氏の再選という結果になった。莫大な政治資金をつぎ込んだ互いの中傷CMなどでの醜いやりとりは、あたかも商品市場での醜悪な競争ではあれ、とても大統領選挙とは思えぬほど露骨で品のないものだったが、当選してしまえば、大統領はアメリカ国民の民意を代表する存在として振る舞う。

 そして選挙後最大の争点は来年1月に生じると考えられる"Fiscal Cliff"問題である。アメリカ政府の財政が行き詰まって崖から落ちることを防ぐために、まず共和党もそれほど反対していない「中間層」の減税を議会で決めようというのがオバマ氏の提案である。そしてその後に共和党との大きな政策の違いである「富裕層」への増税問題が控えている。オバマ氏は「富裕層」の増税によって「貧困層」の救済や社会保障などの負担増にあえぐ財政を立て直そうとするのに対し、共和党は、「富裕層」といわれる人の大半は中小企業の経営者であって、彼らに対する増税は、結局雇用を減らし、経済活性化の障害となる、という主張である。
 しかし、この「富裕層」と「中間層」という区別の基準はまったく曖昧である。「中間層」の上層は「富裕層」の下層と重なるかもしれない。ここでは雇用者と被雇用者という区別がされていないからである。中小企業の経営者と大企業の比較的リッチな従業員の収入の差はあまりないかもしれないが、問題は雇用した従業員の生殺与奪の権利を握っている人と握られている人の立場の違いである。
 どんなに規模の小さな資本家的企業であってもその経営者の生活は、雇用する労働者の労働が生みだす価値のうち剰余価値部分を獲得することで得る「所得」であるが、従業員は、経営者が価値を得るために必要な従業員の労働力の再生産に必要な費用として彼らに渡す賃金によって生活しているのだ。
 従業員はその賃金によって経営者に提供する労働の過程で賃金の価値をはるかに超えた価値を生みだし、それがそっくりそのまま経営者の獲得する利潤になる。経営者自身の生活に必要な生活費はこの利潤として得た「所得」から支払われるが、従業員の生活費は生産手段などと共に、経営者の必要経費として計上された資本の一部(可変資本)なのである。
 賃金は従業員にとっては「所得」ではなく、生きるために必要な生活資料の価値であり、経営者にとって従業員に支払う賃金は、彼の資本の一部を従業員に前貸して労働力を確保し、その労働から、賃金の価値を超える剰余価値を得るための手段であり「必要経費」なのである。
 だから「富裕層」への増税は資本家的経営者の所得への増税と言い直されるべきであり、「中間層」とは、被雇用者の立場であり、現状では比較的安定した生活を得ているが、絶えず失業の不安に置かれている労働者階級と捉えかえすべきであろう。
 もし共和党の主張するように、「減税」が「富裕層」である中小企業の経営者を中心に行われたとすれば、決してそれは雇用の拡大などには用いられず、市場での競争力を付けるために、海外の安い労働力の獲得に向けて投資されるか、企業で用いられる生産手段をより生産性の高いものに置き換え、労働者数を減らす方向に投資されるだろう。だからそれは決して雇用を拡大したり、労働者の生活を安定させるためには用いられないといえる。
 フランスでも同様なことが争点となりつつあり、日本では、衆議院の解散を賭けた「赤字国債法案」とその後の選挙によって登場する政権の施政によっておそらく同様な問題が浮上するであろう。

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