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2013年7月29日 (月)

再びうつ病・自殺者による「社会的損失」をめぐって

 内田樹氏の主張に関してJWFさんから、「竜頭蛇尾」というコメントがあった。確かにそういえる。しかし、世の中全体が右傾化しつつある状況の中では、それに抗ってまっとうな状況分析をしようとしている内田氏はたとえ提案が乏しくても、一応われわれ側と考えたいと思う。

 さて、以前、うつ病・自殺者による「社会的損失」という考え方に疑問を投げかけたことがあったが、今朝の朝日新聞朝刊にまたこの問題が掲載されていたので、もう一度これについて考えてみようと思う。

 朝日の記事では、あるゲームソフト会社社員が「追い出し部屋」への異動命令でうつ状態になってしまい、会社を辞め、うつ病の治療を行いながら失業状態になっているという事例が載っていた。こうした「搦め手」を使った事実上の首切りが浸透しているいまの社会では、当然のことながら、それによってうつ状態になり、それがさらに自殺という悲劇的結末を招いている例が数多くある。

 朝日の記事では、これについてこう書いている。「グローバル競争が激しさを増し、企業は生き残りをかけて人減らしに走る。追い詰められた働き手らが自殺に追い込まれたり、うつ病になったりすることでの「社会的損失」は、年間で約2.7兆円になるとの試算もある。09年までの10年間、うつなどによる自殺者数は年平均3.1万人にのぼるが、「それがまったくいなかったと仮定すると、10年の国内総生産は、約1.7兆円増えていた」と国立社会保障・人口問題研究所の金子能宏氏はいう」。

 そして次のようなデータが載せられている。(1)自殺者が働き続けた場合に得られたはずの生涯所得:1兆9028億円、(2)うつ病で自殺した人と休業した人への労災補償給付:456億円、(3)うつ病で休業した人が働き続けた場合に得られたはずの所得:1094億円、(4)うつ病で失業した人への失業給付:187億円、(5)うつ病がきっかけで生活保護を受けている人の給付:3046億円、(6)うつ病にかかる医療費:2971億円。

 朝日の記事でもカギ括弧に入れて書かれている「社会的損失」とは、一体誰の損失なのか?

 上記(1)と(3)に関していえば、労働者の生涯所得とは、労働者が雇用者(つまり資本家経営者)から前貸しされる、資本家の「労働力再生産費」の総額であり、これは労働者の「所得」ではない。 それは労働者が生きるために必要な生活必需品の購買によって、それらを生産する資本家企業の利益となり、結局は資本家階級全体の維持発展のために用いられる「可変資本部分」である。もっと正確に言えば、それは資本家企業が、競争に勝つためと称して可変資本部分を減らすために労働者をうつ病や死に追い込むことによって節約された分である。

 そして(6)は、可変資本部分の削減のため資本家企業から追い出された労働者が、資本家から何の支援もなく厳しい家計から支出した医療費である。

 (2)、(4)、(5)についていえば、それは本来なら、個々の労働の場で社会的に必要な財を生みだしている労働者たちが、その剰余労働時間部分が生みだした価値部分を社会全体として必要な共通経費として拠出する基金から支出される部分であって、それを資本家が無償で私的に獲得しているがゆえに、政府や自治体が労働者の生活費の一部から税金として取り立てた金を積み立て賄っている基金から用いている部分である。

 さて、こうして見れば、労働者のうつ・自殺によって失われる「社会的損失」とは、生きることすら諦めざるを得なくなった労働者階級の犠牲そのものであり、雇用する資本家にとっては可変資本の節約分でしかないことが分かるであろう。

 つまり、労働者のうつや自殺によって失われる「社会的損失」とは、まず何よりも、資本家の都合により、生きることを拒絶された労働者の痛ましい犠牲であり、それにも拘わらず労働者の生活費から税金として吸い上げた基金によって社会保障を行おうとする政府や自治体が、税金の払い手を失うことによって受けた「損失」であろう。

 そしてそこで「合法的」に労働者の首切りを行って自分たちの利益を守るために可変資本部分を節約した資本家たちにとっては、それは単なる「合理化」や「経費節減」による成果でしかないのである!

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コメント

野口さん、コメント書きさせて貰います。

①自殺者が働き続けた場合に得られたはずの生涯所得:19,028(単位億円 以下同じ)
②うつ病で自殺した人と休業した人への労災補償給付:456
③うつ病で休業した人が働き続けた場合に得られたはずの所得:1,094
④うつ病で失業した人への失業給付:187
⑤うつ病がきっかけで生活保護を受けている人の給付:3,046
⑥うつ病にかかる医療費:2,971
計 26,782

「社会的損失」とは、一体誰の損失なのか?
と野口さんは問うている。

資本家らの損失額がいくらになるか計算してみた。②④⑤⑥のうちから税金からの分が1/2、資本家らの企業負担分が1/2として計算すれば、損失は3,330 一方支払わずにすんだ賃金分①③があり、これらは節約できた額である。その合計は、16,792億円の得となる。(損失ではない。)

資本家らが負担しなかった残りの3,330 億円は国民が税金より負担したことになり、国民の損失である。

途中国民総生産額が登場するが、この内訳の半分は労働者の給料であるから、給料が減れば、GNPはその分低下する。ここでは損失かどうか分からない。

さて、社会的損失として、企業が受けた損失(実は節約)と国民の税金が受けた損失を加えると、朝日新聞の計算2.7兆円の損失とは全く異なる、マイナス13,462億円の損失が生じる。(節約で生じた利得と言える)

一体全体、加減算と云う初歩的計算ができない朝日紙の頭脳は誰が保証しているんだろう。国立なんとか研究所の計算は国の計算式だろうが、鵜呑みにする役割があるだけなのか。さらに精密な計算をすれば、資本の利得が増えることだろう。ブラック化、追い出し部屋化に熱心な理由が分かるところだ。


投稿: mizz | 2013年7月31日 (水) 16時58分

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