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2013年8月10日 (土)

ヴィクトール・オレコフとエドワード・スノーデン

 昨日のNHK BS-TVで2009年にフランスで制作されたあるドキュメンタリー番組を観た。旧ソ連時代のKGB職員ヴィクトール・オレコフの話である。彼は、ソ連時代のKGBで国と党のために働いていたが、情報収集のため反体制運動を行っているグループのリーダー格の人物モロゾフと接触し、その考えを聞くうちに、次第に当時のソ連の一党独裁体制の社会が行っている抑圧的政策に疑問を持ち始め、自由を求める反体制派の主張に共感するようになった。

 やがて、KGB職員としての地位を利用して反体制グループ側にKGBの内部情報を漏らすようになった。それは緊張に充ちた日々であったがオレコフの決意は固かった。そしてやがてKGB当局から二重スパイとして追及され、逮捕されて、8年間強制収容所で服役した。反体制派のモロゾフも収容所送りになったが、やがて自らの命を絶った。やがてオレコフも刑を終えてモスクワに戻った時にはすでにソ連は崩壊し、ロシア共和国の時代になっていた。
 しかし、そこでも旧KGBは名前を変えて存在し、帰郷したオレコフは彼らの監視下に置かれた。やがて旧KGBから暗殺されそうだという情報があり、彼はその情報提供者であったアメリカ大使館に逃れ、アメリカに亡命した。しかし、「自由の国」アメリカでの生活でも彼は決して幸福ではなかった。つねに孤独で閉鎖的生活を余儀なくされ、やがて世間から姿を消していった。
 このドキュメンタリーを観て、私はすぐアメリカのCIA職員エドワード・スノーデンのことを思い起こした。彼は、CIA内部で情報収集を担当しており、そこでテロ対策と称して一般市民を含む多くの個人情報が収集され、監視されている事実を曝き、アメリカから逃亡した。そしていまロシアに滞在し、ロシアはアメリカからの引き渡し要求に応ぜず、両国間の関係が悪化している。
 アメリカではスノーデンを「国家への反逆」と見る人々と「勇気ある行為」として評価する人々に二分されているようだ。
 もとKGB職員であったロシアのプーチン大統領は、この両方の事件をどう考えているのであろうか?
 オレコフが求めていた「自由」とは何だったのか?そしてスノーデンが求めている「個人の権利」とは何なのか?いまアメリカがその中心であると考えられている「自由と人権」が持つ矛盾と、ロシアが「自由」を看板としつつも旧ソ連から暗黙の内に引き継いだ強権的抑圧機構の持つ意味をじっくり考えてみる必要があるようだ。
 ここでそのすべてについて語り尽くすことはできないので、一つだけ取り上げておこう。それは自由な市民とその生活を守るために必要であるとされる社会秩序維持機構の問題である。アメリカでは2001.9.11以来、テロリストへの警戒から情報収集管理への傾斜が大きくなった。そしてあのイラクへの攻撃、アフガンでのタリバン掃討作戦などが展開され、いまやアメリカはテロとの戦いの泥沼に入っている。
 ロシアでもプーチンへの強権批判やイスラム系国民からの反発に対する社会秩序維持機構による情報収集と管理が浸透している。
 日本でも安倍政権が目論む憲法改定に当たって、国家秩序維持のために個人の活動を規制できる内容を盛り込もうとしている。
 しかし、いずれの場合も、なぜ反体制運動が起き、それが国家権力に対して脅威になるのか、そしてまたなぜテロがおきるのか、といった本質的疑問はほとんど問題にされない。
 「自由と人権」は、ある特定の社会体制が永遠に続くことを前提としているわけではないだろう。社会体制は「選挙」によって変えられるというのだろうが、選挙による多数決は、つねにそのときの支配体制による支配的イデオロギーの側が圧倒的有利な立場で行われる。社会体制の矛盾に気付くのはつねに少数派であり、そこから社会変革は始まる。そしてそのとき、こうした少数派の意見は「社会秩序を乱す危険な思想」として扱われ、犯罪行為と見なされることが多い。
 この問題を深めることなしに、社会秩序を維持することだけが先行すれば、どうなるか、すでに多くの過去および現在の歴史的事実が物語っているではないか。

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