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2014年10月 2日 (木)

生産の「合理化」は何をもたらすのか?

 世の中、貧困層が増加し、富裕層が潤うという状況が世界中で展開されているが、一方で日本では人手不足で悩んでいる企業も多いのだそうだ。確かに日本の失業率は欧米に比べると低い方だ。

 だがしかし、その実情はこうだ。人手不足を補うために取られる方法は、一つは給料を上げて労働市場で労働者を引き寄せることと、もう一つは自動化などいわゆる生産の「合理化」によって補う方法だ。前者は円安による輸出などで儲かっている企業や、投資や投機で潤っている金融企業では賃上げという形で実現されるが、円安による輸入材料価格の値上げなどで経営が厳しくなっている中小企業では、賃金を上げることも出来ず、人が集まらず、かといって設備投資のカネもないので長時間労働の常態化や、アルバイトの雇用などで凌ぐか、それでだめなら業務の縮小か、労働者の賃金水準が低い海外への工場移転ということになる。
 また外食産業やサービス産業など非生産部門でも、非正規雇用やアルバイト労働者の酷使(いわゆる「ブラック企業化」)や労働時間の肉体的限界までの延長が行われた後、営業時間の短縮などに追い込まれる(そうなれば当然労働者の賃金も下げられる)。
 要するに、たとえ人手不足であっても、いかに労働賃金への支出を抑えながら、市場での競争に生き残るかということである。これが資本家的経営の鉄則だからである。
 一方で、いわゆる生産の「合理化」は、資本に余裕がある企業が行う。労働者一人当たりの生産性を高めるために、設備の更新や自動化が推し進められる。アベノミクスでは、「企業の利益が増加して設備投資が増え、労働賃金が上がれば消費が増大する」という架空のシナリオが描かれているが、設備投資が増えて生産が「合理化」され自動化されると雇用される労働者の数は減るのである。
 そして、企業は「合理化」が進み雇用する労働者が減れば、そこで生み出される商品の価格が安く抑えられ、市場での競争は有利になるが、企業としての利潤率は低下するのである。なぜなら「合理化」により労働時間が同じであれば一人当たりの労働者から得る剰余価値率(労働者が生み出す商品の価値から労働賃金部分と生産手段の価値部分を引いた残りの価値部分の商品価値における割合)は増えるかも知れないが、労働者数の減少によって企業全体で獲得する剰余価値量は減少するからである。
 極端なことを言えば、生産企業がすべて自動ロボット化され労働者数が極端に減れば、生産される商品のコストは安くなるが、世の中に失業者があふれ、商品の買い手は減少する。つまり資本家企業は単純な「合理化」の延長だけでは破綻するのである。
 そこで資本家企業では企業規模を拡大し、より多くの労働力を獲得しようとすることになる。競争に負けた企業を吸収し、海外企業の買収によって規模を拡大する。そして全体として搾取できる労働力の数を増やそうとするのである。
 しかし、あらたな「合理化」がなく労働者数が増えればまたもとの木阿弥になってしまう。ジレンマである。
 ではどうするか?そこで資本家企業はつねに大量の低賃金労働が必要となるのである。競争に勝ち抜くことができ、極端な合理化での利潤率の低下で破綻することを防ぐには、つねに国境を越えて低賃金で働く大量の労働者が必要となるのである。そしてその低賃金労働者たちは、資本家側からは大量の生活資料商品の買い手として、つまり「消費者」として位置づけられるのだ。だから資本家企業にとって「開発途上国」はヨダレがでるほど欲しい労働力市場でもあり生活資料商品市場でもあるのだ。
 これと同時に、「先進国」では、「合理化」で所得の増えた富裕層の趣味と暇つぶしのための第3次産業(観光、趣味娯楽、サービス業など)や奢侈品産業に資本が投入され、そこに雇用を増やして利潤を上げようとする。こうした第3次産業や奢侈品産業ではいわゆる労働集約型の仕事が多く、低賃金労働者数を増やしやすいのである。つまり富裕層からの「おこぼれ」を得るために働く労働者がどんどん増えるのである。
 昨今のグローバル化した資本(アントニオ・ネグリはこれを「帝国」と言っている)においては、貨幣価値が人為的にコントロールされ、インフレが常態化しており、そのなかで投資や投機によって世界中の富が一握りの超富裕層に集中しつつあるが、その中で「賃上げ」という恩賞を頂戴できる中間富裕層が世の中の消費拡大の牽引役となっており、絶対多数の下層労働者層は貧困のままに抑え込まれている。
 そして巨大資本による「合理化」はその状況に拍車を掛けているといえるだろう。

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