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2014年12月22日 (月)

アベノミクスのマルクス経済学的分析(その8:幻の繁栄)

 前回ではマルクスの再生産表式を用いてアベノミクスの土台であるケインズ型「有効需要の原理」とその矛盾について述べた。今回はその矛盾が破綻に向かうまでの過程が幻の繁栄で彩られてきた事実について考えてみよう。

 そもそも「奢侈品」の生産とは何であるかについて、マルクスは資本論第二巻の第20章(再生産の章)で述べている。詳しくは資本論を見て頂くことにして、要点を述べれば、たとえ単純再生産の資本主義経済であっても資本家が獲得した剰余価値部分を自分の趣味のために消費する形で奢侈品生産は存在し、そのために労働する人々が存在する。しかし、その場合、奢侈品生産に携わる労働者の賃金は資本家が私的に獲得した剰余価値部分から支払われ、あくまで再生産に結びつかないものとしてである。
 ところが、拡大再生産を前提とした資本主義経済が20世紀中葉に世界金融恐慌による破綻の危機を乗り越えるために編み出された「消費駆動型資本主義経済」の場合は、事情が異なり、本来の奢侈品と一見ほとんど区別のつかない疑似奢侈品生産物が労働者の生活資料の中に紛れ込むことになる。それは労働者があたかも「賃上げ」によって「可処分所得」を増やすことが可能となり、それによってある種の贅沢品ともいえる生活資料(例えば家電製品やクルマ、コンピュータ、スマホなどなど)を購入できるようになったかに見えて、実はそれらの疑似奢侈品商品購入に支払われた労働賃金はすべてそれらの生活資料商品を生産する資本家の手に環流するのである。つまりケインズ型消費駆動資本主義のもとでは、労働者が「賃上げ」されたように見せかけながら、その上がった分は資本家の利潤を増やすために支払われ、労働者の「所得」にはならないのである。その一方で同時に、本来の奢侈品生産も拡大され、資本家達の富裕な生活をますます華やかに彩るのである。
 もちろん「賢い労働者」は賃金の中から貯めたお金を使って株を買ったり、投資したりしてそれを増やすこともできるが、それは結局金融資本の手にそれを渡すことで、資本家達の富を増やすモメントの一つとして利用されているに過ぎないのである。彼らは資本家達の「おこぼれ」を頂戴しながら資本家達の富を増やすことに貢献することで、自ら寄生的「新富裕層」となっていく。
 こうして一見「ぶあつい中間層」と見える人々が増えて行くが、その内実は、資本家達から消費欲をかき立てられ、どんどん商品を買わされることで、サラリーを消費させられているにもかかわらず自分が「豊かな生活」をしているかのように思い込まされている大多数の労働者層と、その中から資本家のおこぼれによって寄生的な「富裕層」となっていった人々が混在しているのである。そこにはデザイナーやサービス業、娯楽・観光業などという「あだ花」が咲いている。こうして限りない「無駄な消費」の拡大が行われていく。
 しかし、こうした「消費駆動型資本主義経済」を維持して行くためには、おカネの流れをコントロールしなければならない。そこでは資本家の利潤を増やしながらも労働者の賃金もあたかも少しずつ増えて行っているかのようにみせかけるため、絶えず流通するおカネの量を増やしながら、その回転速度を速めていかねばならない。しかしインフレはおカネの価値を下げることになる。そのため国の政策のもとで、おカネは金本位制ではなく管理通貨制によって中央銀行がその価値を保証する形をとりながら、その流れをコントロールする必要がでてくる。
 こうした体制は、すでに資本主義本来の個々の資本家たちの「レッセフェール」に任せておけば市場の原理によって経済はうまく回る、という古典派経済学の範疇が破綻してしまった資本主義の姿なのである。国家が個々の資本家達の利害を調整すべく「総資本」の立場で金融資本を通じてその利害を護るためにさまざまな経済政策を採るという形の資本主義経済なのである(これを「国家独占資本主義」と呼ぶこともある)。
 しかし、実際には価値がどんどん下がっている貨幣を見せかけで維持する体制は、一方で株価の動きや、為替レートなどの動きで敏感に経済を翻弄させることになり、他方では、どんどん国際的な市場競争を激化させながら、労働者を酷使し、低賃金労働におカネが動き、労働者の生活をますます厳しくしていかざるをえないのである。
(次回に続く)

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