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2014年7月6日 - 2014年7月12日

2014年7月 9日 (水)

第61回日本デザイン学会春季研究発表大会に参加して (その3)

 5日の午後は、私は「インターフェスデザインの評価」というオーガナイズドセッションでパネリストの一人として「デザイン思考と気づき」という問題について5〜6分のスピーチを受け持つことになっていた。  なぜ私のようなインターフェスデザインの専門家でもない者がここで喋ることになったかといえば、この秋に出版を予定している本のことに関係するのである。昨年あることがきっかけで、デザインの創造性を扱った本を出さないかと持ちかけて下さったのがH大の I 先生であった。I 先生は長年ある電機メーカーでインターフェースデザインの責任者だった人で、多くのインターフェースデザイン関係の著書がある。I 先生は、ほとんど私があきらめかけていた自分のこれまでやってきた研究内容のまとめを、一般向けのコンパクトにまとめた本として出版する機会を与えて下さったのである。それに応えるべく私は I 先生主催のセッションに顔を出すことにしたのである。

 というわけで、ちょっと場違いではあったが、インターフェースデザインのホットな話題に巻き込まれることになった。 I 先生のインターフェースデザインの基本的考え方とその中でいま問題になっていることの紹介あと、パネリストが自分の考えややっている仕事の内容を紹介した。その中で、あるデザイン会社を経営しているT氏が作ったハードウエアとソフトウエアを統合したインターフェースのプロトタイプ作成キットの紹介があった。このキットは従来の様なFlashやPPTなどでつくるソフト的なプロトタイプではできなかったボタンの押し具合やダイヤルの回し具合などをハード的なパーツによって確かめられるというものだ。この製品と私の「デザイン思考における気づき」という話が結びつくわけである。

 私の主張はモノづくりにおけるデザイン思考はかならず自分の頭の中で考えていることをいったん外に表出してみて初めてそれを媒介にして思考が進むというものであるが、その表出の結果からうける「気づき」が発想のドライブになるということと、それが上流のアイデアスケッチなどの段階だけではなく、下流の実際の製品に近い形で作られるプロトタイプにおいてさえ起こるということである。それはたとえ自分が考えている思考の内容であってもいったん外に表出されたものは外的対象物であり、そこには観念的に意識されたもの以上の情報が含まれているからである(その場ではもちろん言わなかったが、実はこれはマルクス的唯物論を下敷きにしている)。

 というわけで、何とかこのセッションでの発表は終わった。ここで私が喋った限りのことはパネリストの人たちにも受け止めてもらえたようで一安心した。

 その日の夜は懇親会で、偶然「みうら折」の三浦広亮氏に出会い、直接おもしろい話が聞けたのは良かった。

 翌6日には、私の古巣であった創造性研究部会のセッションに顔をだしてみた。ここではさまざまな具体的研究や制作例が紹介されていたが、残念ながら肝心のデザイン創造性研究に直結する理論の研究発表はなかった。あまり質問すると煙たがられそうなので、黙って早々にその場を退いた。

 全体として感じられたことは、科学ではなく実践に関わることが本質のデザインの理論的研究が、社会的問題を無視してはできないにも関わらず、それが単に企業をはじめ「世の中に役立つ研究」という視点からのみ行われていたように思え、核心的問題は相変わらず議論の対象にはされていないようだった。

 困ったものだ。

(おわり)

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第61回日本デザイン学会春季研究発表大会に参加して (その2)

 5日の研究発表では、まず、テーマセッション「デザイン科学の枠組みとタイムアクシス・デザイン」というセッションを聴きにいった。ここは「デザイン科学」という領域を確立させようという人たちが行っている研究発表があった。デザインを科学として捉えるということであるが、これに関するディスカッションはいったんここでは置いておき、具体的な研究として、アイデアスケッチのスキルを構造的に捉えるという研究、デザイン科学事典発刊を目指したデザイン科学の基盤構築に関する提言、人工物の価値成長という視点からの研究、そして創発アルゴリズムの研究に着目した。

 このうち内容的におもしろかったのは、アイデアスケッチに関する研究と創発アルゴリズムの研究であったが、それについては別の機会に述べることにして、もっとも気になったのはデザイン科学の基盤構築に関する提言と人工物の価値成長に関する研究であった。

 まずデザイン科学の基盤構築に関する問題であるが、これはさまざまな設計、デザイン領域に共通する問題を抽出してそれをデザイン科学という視点から理論構築しようという提言であった。おそらく文科省の科学研究費における横断的研究領域としての地位を確立させることが目標と思われるが、実はこれはものすごい難問だと私は思っている。それは現にある職能的専門としての設計やデザインの専門分野でいまどのような矛盾に直面しているかがまず明らかにされねばならないと思うからだ。それらの専門分野に共通する部分を抽象した「一般設計学」的な研究ではおそらくその先の進展がありえない。本来、デザイン思考は、人間の実践的問題解決の中核をなす思考だからである。自然界の法則を見いだす自然科学や人間社会の歴史的法則を見いだす社会科学ではなく、それらをどう適用して問題を解決するかが中心的課題だからである。つまりデザインのような問題解決行為の場合、共通点を抽出する「単純抽象」ではなく、否定を媒介とした抽象が行われなければ、理論研究の意味がなくなるのである。この問題の研究者たちはデザインを科学としてとらえようとするより前にまずこのことに気づくべきではなかろうか。

 次に人工物の価値成長の研究についてであるが、ここでは個人の主観的価値観と経済的な市場価値の違いがまったく意識されておらず、人工物への愛着をどう生みだして行くかが問題にされていた。しかし、現実には、価値は社会的に必要なモノがどのくらいの分担労働量によって生み出されるかを決める指標であるのに対し、市場価格はそれをベースにしながら市場での需要と供給の力関係で設定される。だから市場価格には個人的価値観に訴えて価格を実際の価値以上につり上げることが行われる。これがいわゆる「付加価値」である。問題はこうした「付加価値」を引き上げるためにデザイン労働が奉仕させられている、つまり必要のためのデザインではなく販売促進のためのデザインになっているという現実なのだ。これが過剰な消費を促進させ、資源の枯渇や自然環境の悪化を招き、富の偏在を加速させているという現実をみるべきではないのか。

 こうしたいまのデザインを巡る基本問題をそっちのけにして「デザイン科学」の確立を図ってみても、それは単なるアカデミックな権威付けにしかならないだろう。

(その3に続く)

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2014年7月 8日 (火)

第61回日本デザイン学会春季研究発表大会に参加して (その1)

 7月4〜6日に福井工業大で表記の学会研究発表大会があり、参加してきた。この大学はキャンパス内に正倉院や法隆寺夢殿の様な建築物があったり、神武天皇や本居宣長の銅像があったり、そうかと思えば広場には実物のジェット戦闘機が空中高く展示されていたり、という変わった大学である。安倍首相は喜びそうであるが...。

大会のメインテーマは「しあわせのデザイン」である。何とも今の危機的時代状況からするとズッコケ感のあるテーマであるが、福井県が「幸せ度」日本一なのだそうで、こういうテーマがついたようだ。苦心のジョークとして受け止めておこう。
最初の記念講演は、慶応義塾大教授でいろいろ輝かしい業績に充ちたM先生の「しあわせのメカニズムとデザイン」というものだった。しあわせにメカニズムがあるというのだから驚いた。しあわせの要素をいろいろ集計して因子分析やクラスタ分析に掛けてさまざまなタイプのしあわせがあるということが分かったという内容だった。なるほどさすが専門家の分析である。しかし、しあわせのメカニズムが分かっても、いまひとつしあわせな気持ちになれず、私にはピンと来なかった。
 その後で出てきた「面白いをデザインする」という題目の講演者は最初「谷俵太」という名前で出てきたので気がつかなかったが、タレントの越前屋俵太さんであった。これがおもしろかった。単に話がうまいからというだけでなく、内容がおもしろかった。ヴィデオでの記録を見せながら、「おもしろさ」は恣意的につくりだそうとしてもダメで、ほとんど意図せずに起きる出来事を「おもしろがる」という態度から生まれる、というのである。彼のパフォーマンスはことごとく筋書きなしであった。そのため一度NHKの生放送番組に出演して以来、その後お呼びが掛からなくなったというのである。納得できた。
 司会の大学教員もこのパフォーマンスに巻き込まれ、「なんですか、そのピンク色のシャツに黄緑色のネクタイは、ひどい色の合わせ方だな!」と俵太氏が突っ込むと、その先生は「これはハムとサラダの組み合わせです」とおとぼけを返す、という具合に漫才を見るような笑いの渦が会場を充たした。
 私はその後のエクスカーションで「北前亭」という寄席に落語を観に行った。桂蝶六という中堅落語家の話を聞きながら福井の酒とおつまみを楽しむというものであった。これがまた結構おもしろかった。小さな寄席であるが演者と客がほとんど同じ目線で対するという雰囲気もよかった。そして話が終わって、弁当を食べていると、そこに再び俵太さんが登場して、そろそろ帰ろうとしているわれわれの前で蝶六さんと福井工大の教員と俵太さんの間でアドリブ漫才が始まった。これはまったく予定にないことなのでみな大喜び。久しぶりに腹の底から笑えた。
 というわけで、第一日の印象は良かった。そして2日目からは研究発表が始まった。これについては次のブログに書こうと思う。

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