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2015年12月31日 (木)

「モノづくりの創造性」に込められた著者の思い

 2015年もあと数時間で終わる。こうして毎年二度とやってこない歴史のワンステップを繰り返しながら私は残りの人生が少なくなっていくことを実感する。マルクスの言葉を借りれば「人は一日24時間づつ死んでいく」のだ。そして人生の最後に生を死にきるのだ。その後に死はない。

 さて2014年12月に、私としては相当の意気込みで出版した「モノづくりの創造性--持続可能なコンパクト社会の実現に向けて」(海文堂)は残念ながら売れ行きがはかばかしくない。出版直後にさまざまな友人や旧上司、教え子などにこの本を贈呈したが、その反応は驚くほど少なく一握りの人からの温かい言葉を除いてほとんど無視されてしまった。出版社とのパイプ役をして下さり、共著という形で名前を連ねていただいたI 先生にも申し訳ない気持ちである。
 この本に私が込めた意図は、現代社会でのモノづくりが、人類の歴史上例のない異常な形で発展してしまい、それが地球環境あるいは人類社会全体に大きな危機をもたらしているということへの警告と、それを加速するのに貢献しているデザイナーやクリエータと呼ばれる「創造的思考」を職能にしている人たちの自覚を促すことにあった。そして何よりも私自身が深い考えもなしに「創造的思考」の研究者であり、「デザイン発想支援」の専門家を自認していたことへの自己批判である。
 人間の創造的思考とは何か、それがいまどうなっているのか、そしてこれからどのようになるべきなのか、という問いはおそらく私の残り少ない人生では解決の目途も立たないような大きく重い問題であろう。
 「モノづくりの創造性」の約6割位を占めている第2部では、私が大学在籍中に学生達と一緒に研究を重ねてきたことのある意味で集大成でもある。しかしその研究が置かれた位置の矛盾について歴史的な考察をした第1部や、これからさきの社会でのモノづくりをどう考えるべきかを考察した第3部との間に、大きなギャップが感じられ、それがこの本の意図を不明確にしているといまでは反省している。つまりこのギャップは私の内部でまだ問題が未解決であることを端的に物語っているといえる。
 しかし、一歩引き下がって考えれば、こうした大問題に無関心で気づくこともなく、目の前の「おもしろさ」にとらわれ、「これはものになりそうだ!」という意識から創造性発揮への意欲を燃やしている人たちにとって、その意欲が置かれている現実からのしっぺ返しが待っている。いかに「ものになりそうだ!」と思われたアイデアもそのほとんどがやがて私たちの生活から消えてなくなっていくのである。ほんとうに私たちの生活の在り方を変えるようなモノはほとんどない。私はこの本の中で私たちの生活の在り方を変えたモノの例としてネジ(ボルトとナット)を挙げた。それは長い歴史の中で何世代にも渡る人々によって引き継がれ改良を重ねられた結果として出来上がってきた「ホンモノ」なのである。その他にもこうした好例はいくつもある。
しかし現代の「創造性の時代」から生まれたアイデア商品のようなモノはおそらくその99%以上が数年を待たずに消えて行くだろう。本来の意味での創造性の発揮とはそんなに甘いものではないのだ。
 「アイデアマシン」としてのデザイナーが要求される「創造性」は本当に必要なアイデアではなく「売れる商品」をつくるための創造性なのである。「あると便利」や「欲しくなる」というキャッチフレーズによる無駄な消費の際限ない拡大によってしか経済が成り立たず、人間が「消費者」としてモノを買うことにしか存在意義がないほどに貶められてしまうような社会は決して私たちが求める社会の姿ではない。本当に自分たちが必要とするモノを必要なだけつくることで成り立つ経済体制によって人間が主役になれる社会こそ私たちが求める社会なのだ。そうでなければいつかきっと無駄な消費と無駄なモノづくりによって地球も人類もその存在そのものを脅かされるようになるだろう。
 私はこのような考えを次の世代に引き継ぎ、だれかがそれを育てていってくれることを願いつつ「モノづくりの創造性」を書いた。2016年には少しでもこの願いが叶ってくれることを祈っている。

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