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2015年12月18日 (金)

戦争を生きた芸術家たちの実像に思う

 先日NHK TVの歴史番組「英雄たちの決断」で画家の藤田嗣治について論者達がその実像をえぐり出していた。また今朝のNHK BSでは指揮者の近衛秀麿氏に関するドキュメンタリー風の番組を放映していた。両者とも第2次世界大戦の渦中で当時国際的に活躍していた日本の芸術家たちがどんな立場に置かれどう行動していたかを描いたものだった。特に後者の近衛秀麿に関する番組は取材も実にしっかりしており、近来になく見ごたえのある番組であった。

 藤田は戦前日本の美術教育にあきたらずフランスに渡って、当時のモダンアート最前衛のパリで多くの芸術家たちとの交流の中で「裸婦」などで彼独特の画風を打ち立て、脚光を浴びた画家であったことは誰でも知っているだろう。しかし、この番組では彼が戦争直前に帰国し、その後日本が戦争に突入する中で、国策に沿った戦争絵画に手を染め。「アッツ島の玉砕」で当時大評判になったことを中心に番組では論者たちが見解を述べ合った。「アッツ島の玉砕」は決して単純な戦意高揚絵画ではなく、さまざまな要素が入り交じった作品であり、見方によっては戦争への批判ともとれる面もあったが、軍部はこれを容認した。そして藤田は敗戦後、人々から戦争協力芸術家の汚名を着せられ、日本を逃れフランスに永住した。藤田自身さまざまな顔を持つ人物で、なにか思想的にしっかりしたものを持っていたというよりも、絵画表現そのものの「「手応え」に敏感な人であったということの様だった。
 一方、近衛秀麿の方は、天皇家に近い貴族名門の出身で、兄は日独伊三国同盟を結び太平洋戦争の口火を切った政府で内閣総理大臣だった近衛文麿である。少年の頃から音楽家をめざし、やがてドイツに留学し、西欧のクラシック音楽をまたたくまに吸収して西欧でも当時名を知られるような指揮者になった人である。彼は第2次大戦勃発後もドイツに留まり、豊富な人脈をバックにヒトラー政権下で精力的に音楽活動を続けたが、ナチス政権が押し進めるユダヤ人排斥運動の中で、同僚の演奏家などで活躍しているユダヤ系の人々が迫害されるのを放っておけず、彼らの救援や国外逃亡を助ける側についた。同盟国である日本人という立場と日本外交官との繋がりをも駆使してかなり危ない橋を渡りながらユダヤ人援助を続けた。そして終戦とともにアメリカ軍によって収容され尋問を受けた。しかしそこでナチス政権下でのユダヤ人救援活動が認められ、戦犯とならずに解放され日本に帰国できた。
 こう書いただけでは彼らの内面がなにも浮かび上がってこないだろうが、藤田も近衛もその内面の葛藤はかなりなものであったと思われる。そして共通するのは両者とも戦後になっても彼らの内面を多く語ることがなかったということである。私には彼らの国際的な活躍のまぶしさよりも、このことの方に関心がある。
藤田の方は、高村光太郎のケースにもある種通じる心情で、何も語りたくないという気持ちがそのまま表れているようだが、近衛の方は米国占領下の日本でむしろ自慢してもよいと思われるような行動を敢えて口にしなかった。その心中を察するに、戦争遂行責任者を問われ自死した兄文麿との関係もあり、同盟国ナチス政権下で音楽活動を続けた自分の立場について軽々しく口にはできなかったであろうし、同時にまた、一方で戦意高揚に利用され、他方で戦争がもたらす悲惨な殺戮と破壊の中で呆然自失した人々に生きる力を与えるのも音楽であるという経験の中で、芸術家の立場の難しさを実感していたに違いないと思われる。
 そしていまを考える。ネット社会と言われる情報過多時代にあって、マスコミなどに取り上げられ名前を知られるようになることこそが芸術家として成功する決め手と考える人が多くないか?芸術家をひとつの商品としてしか考えないいまの社会への批判精神もなく有名になれば、きっといつかその世の中に見捨てられ、芸術家としての立場も人間としての価値も否定されることになるかもしれないのだ。藤田と近衛の芸術家としての人生の苦闘への追体験的反省がない限り、真に時代を表現できる芸術家にはなり得ないのではないだろうか?

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