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2016年5月10日 (火)

タックスヘイブンの意味するもの(続き)

前回に引き続き、この問題について考えよう。タックスヘイブンによって運用される資金の額は、なんと2570兆〜3750兆円にもなるそうだ。アメリカと日本のGDPの合計額を超える金額である。

 今朝の朝日新聞の「耕論」欄「パナマ文書が晒すもの」 では3人の識者が見解を述べている。一人はもと国税庁役人だった鳥羽衛氏、もう一人は作家で、もと大手金融機関や商社にいた黒木亮氏、そして3人目は今回のパナマ文書公開の主役である国際的ジャーナリスト機関ICIJの事務局長であるジェラード・ライル氏だ。
 鳥羽氏は、節税のためタックスヘイブンを利用すること自体は昔から行われており、必ずしも違法ではないとした上で、多国籍企業が税制の抜け穴を利用してペーパカンパニーなどを作り、過度の節税をしていたり、国家の指導者たちがこれを利用していることが問題だとし、さらに悪質な政治資金や暴力団などの資金の受け皿になっていたりすることが問題なのだと述べている。鳥羽氏は自分の役柄上からも、「税制の公平性」を強調し、それが損なわれる事態に対して懸念している。
 黒木氏は、自らタックスヘイブンを活用してきた経験から、国際金融の世界ではタックスヘイブンを活用することは普通に行われており、各国の当局も認めている一般的な金融手法だと断言する。そして問題なのは、情報を一切公開せず、脱税やマネーロンダリングにこれが利用される場合だとしている。そしてそれを幇助してきたバンカーや弁護士、会計士こそが悪の張本人だとする。そしてこうした行為を防ぐためにそれを監視する情報共有の輪こそ必要だと主張する。
 ライル氏は、ジャーナリズムの立場として、公益上公開されるべき情報を公開させるということを目的に仕事をしており、今回のパナマ文書問題の情報公開もその立場から各国の公職者に焦点を当てている。しかしジャーナリズムは公開された後には一歩引き下がりそれについてはタッチすべきではないという。
 こうした見解を取り上げるのはいかにも「公平中立」を旨とする朝日新聞の立場を表しているが、実はそこに肝心の問題の核心が覆い隠されているというのが大きな問題だ。それが前回のブログで述べたことである。
事実上、タックスヘイブンを黙認してきた各国政府の立場は、「自由経済」の原則に基づく企業活動や金融活動の立場からであろう。しかし、そもそも本来、社会のために働く人々がその労働から生みだした価値のうち社会的共有財として用いられるべき部分を不当に私有化(個人も法人も含めて)し、それを投資などによって私的財産の拡大に転用することが法的に認められていることが問題なのであって、このシステム自体本質的に「公平」でないのだ。そこに切り込まなければ、タックスヘイブン問題の核心は見えてこない。
当然金融機関や商社の立場からすれば違法でなければこれを活用して「節税する自由」が認められなければならないだろうし、国家の公職にある要人たちも一個人としてこの「自由」を享受すべきと考えるだろう。しかし彼らが考える「自由」こそ、いまの社会の不平等や不当な搾取を正当化する根拠であり、その体制が生みだしたイデオロギーなのである。
私たちはそれを「まやかしの自由」と呼びたい。そしてもう一つ言えば、いまのジャーナリズムの「中立公平性」とは、この「まやかしの自由」をまもるイデオロギーの一環でしかないということだ。情報を公開することだけが目的なのではなく、誰の立場でそれを追究するのかが問われなければならない。それはジャーナリズム自身に向けられた問いでもあるはずだ。
 いま私たちに必要なことは、この「まやかしの自由」の否定の上に立った、「本来の自由」を求める立場から、虚偽の思想の普遍化を担っているイデオロギーと闘い、事の真実を探り、それをあきらかにすることなのではないのか?

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