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2016年11月12日 (土)

トランプ次期大統領に関する論議を巡って(1)<修正版>

 トランプが次期アメリカ大統領に決まってまだ2〜3日しか経っていないのに、マスコミはこれを巡る論議で一杯である。これらの問題をどう整理してよいか難しいところであるが、今朝の朝日新聞「オピニオン」欄での社会学者イマニュエル・ウオーラーステイン氏のインタビュー記事は問題が一応包括的に述べられていて面白い。これについては別の機会に触れることにする。

そこで私はこれらに通底する資本主義社会の今後の行方についてトランプ登場がどのような意味をもっているのかという視点で何回かに渡って考えてみようと思う。
 1980年代末〜90年代前半ソ連圏崩壊以降、アメリカの一極支配が叫ばれてきたが、そのさなかにユーゴ分裂内戦、直後に湾岸戦争が起きた。そして2001年アルカイダによる国際テロが始まり、イラク、アフガン戦争へと発展、「世界の警察官」アメリカは苦境に立たされ、アメリカ軍事力の一極支配はまぼろしとなりつつあった。
 一方で中国が鄧小平の「開放改革政策」以後著しい経済的発展を遂げ、21世紀初頭には「世界の工場」になりつつあった。ソ連崩壊で経済的危機にあったロシアも石油・天然ガス資源などを半私有化した新興資本家が登場し、これと手を組んだプーチン政権が半独裁的政治体制を築き、経済的に復興し始めた。
 他方1990年代後半の日本では「バブル崩壊」が起こるべくして起き、深刻な経済状態となって、以後20年近く続くいわゆる「デフレ状態」に入り、労働市場は「就職氷河期」となり失業率も急増した。1980年代の「バブル経済」そのものが実は日本の資本主義経済破綻の前兆であったといえるだろう。
  アメリカでは1990年代から始まった「IT革命」によってコンピュータ関連、インターネット関連の新興資本家が次々と登場し、軍事的衰退と裏腹に一定の経済的繁栄期が訪れるかに見えた。日本の経済状態もそれに助けられてある程度復活するかに見えたが、2008年のアメリカでのサブプライム・ローンの焦げ付きに端を発する「リーマン・ショック」によって世界的な経済恐慌が訪れた。ここでアメリカの一極支配は経済的にも確実に崩れ始めたと考えられる。
 アメリカ社会はすでに労働者階級が、何十年分もの賃金の前借りをしなければ住むための家を持つことができず、それを資本家的利潤に結びつけようとする金融資本の欺瞞的ローンシステムがつまづき、崩壊したのである。それ以前から労働者階級は苦境に立たされていて、かつての「中間層」上層部の労働貴族たちも急速に崩壊しつつあったと考えられる。リーマン・ショックはその顕著な現れとみてよいだろう。
 リーマン・ショックにより ヒスパニック系やアフリカ系などの移民を中心とした下層労働者階級が特に惨めな状況に落としこまれ、こうした人々の支持を得て、オバマ政権が登場したといえるだろう。しかし、その一方で没落した白人系の「労働貴族」たち(彼らの多くはアメリカ資本主義絶頂期に資本家側からの「おこぼれ」によって高賃金を得てどんどん高価な消費財商品を購買するによって消費面から資本主義経済を支えていた人々である) は自分たちの職が奪われたのは移民を中心とする低賃金の下層労働者のせいだと主張し、またオバマ政権がヒスパニックやアフリカ系労働者ばかり支援して自分たちを置き去りにしているとして、白人中心主義の共和党右派を支持するようになったと思われる。
  しかし事実は「世界の工場」の座を獲得しつつあった中国やメキシコなどへアメリカ製造業資本の生産拠点の移転や、国内工場での「生産の合理化」による労働者削減が彼らの雇用を脅かしていったのである。
 オバマ政権は核廃絶・銃規制の実施、社会保障の充実など「リベラル派」としての政策を打ち出したが、いずれも議会で多数派を占めた共和党に反対され事実上挫折した。他方経済政策ではアメリカ大資本の後押しで TPPに代表される自由貿易協定を推進しようとしたのであるが、結局はこうした「リベラル派」特有の中途半端な政策の流れの中で下層労働者階級と「中間層」を自認していた没落白人労働貴族たちとの間に深い溝ができていったと考えられる。そしてそれが今回の大統領選挙で爆発したと考えるべきであろう。
 「中間層」上層部から没落した白人労働者層と「中間層」下層部分を形成していたり、もともと下層労働者であったヒスパニック系やアフリカ系の労働者は、ともに崩壊しつつあるアメリカ資本主義経済の犠牲者という同じ立場なのであり、その反面でそれらの犠牲者の上に立って、海外の低賃金労働から吸い上げた莫大な利潤を獲得して行った一握りの支配階級が「成長」したのだ。この極端な格差の拡大は崩壊しつつある資本主義経済という一つのコインの裏と表を成す両面なのである。
 こうした状況の中で、労働者階級同士がは互いに敵対し憎み合うことは支配階級にとっては好都合なことである。支配階級層の一員であるトランプがあたかも労働者階級の一方の側の味方であるかのように振る舞うことで、大統領の座を得ることに成功した。ここでは白人労働者を中心とした旧中間層上層部は事実上支配者側の「手先」になっていたわけである。
  支配階級はつねに決してあからさまに支配階級としては現れず、こうして背後から被支配階級を分裂させ統治を維持していくのである。そのことはオバマ政権にも言えるだろう。「リベラル派」は結局労働者階級の要求を容れる様な形を見せながら、実際には支配階級による政治経済体制を維持させて行っているのであり、オバマの"We can change"は結局社会変革への強い要求をはぐらかすための「ガス抜き」でしかなかったことが分かる。
  アメリカの民主党と共和党という2大政党は両者とも支配階級の代表なのである。アメリカに本当の意味での労働者階級を代表する政党はまだ成長していない。
 世界的に見てもグローバル資本の支配が進めば進むほど労働者階級間の対立や争いが多くなっており、多くの場合、労働者階級内での対立を起こさせているのは国家主義や民族主義など支配階級側のイデオロギーに「洗脳」された労働者階級の人たちなのである。彼らを本来の労働者階級の側に引き戻し、互いに手を結んで本来闘うべき相手を明確にさせることが可能かどうかが現下の最大の問題と言えるのではないだろうか?
(続く)

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