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2016年11月16日 (水)

自由貿易主義と民族・国家主義という「矛盾的自己同一」

 TPPを巡るオバマとトランプの対立に典型的に見られるような自由貿易主義と民族・国家主義の対立は、実は同じ資本主義社会という実体の表と裏の関係であるように思える。西田哲学流にいえば資本主義社会における「矛盾的自己同一」の一形態である。

 資本主義社会はその発生以来、12〜13世紀頃の国境を越えた貿易によるベネティア、フィレンツェなどの商人資本の蓄積から始まっている。重商主義論者がモデル化した17世紀フランス資本主義社会の成長期の姿もそれであり、19世紀イギリスにおける植民地の存在を前提とした産業資本主義社会の形成も同様である。国境を越えた商品の取引が資本主義経済の必須の条件であり、それは今日まで変わっていない。ではそれがなぜ矛盾を生じるのか?
それは国境を越えた商品の売り買いが、労働力商品をインクルードしたものであり海外での労働の搾取を前提としているからである。
 産業革命隆盛期のイギリスでは、本国に拠点を置く資本家企業が植民地に進出し、その地に古くから存在していた社会を資本主義経済に巻き込み、資本家的分業の推進により賃労働者を大量に発生させ、本国とは比べものにならないほどの低賃金で過酷な労働のもとに原料商品を本国の工場に送り出していた。一方でこの頃から近代的国家体制が「国益」を護るためと称して農民や労働者によって編成された常備軍を伴って各国に形成され、労働者階級は各国の政治的国境内に囲い込まれたのである。
 だから20世紀初頭には列強と言われる資本主義諸国間での植民地や市場の争奪戦が激化し、第一次世界大戦が起きた時、各国の労働者農民達が互いに個人的には何の恨みもないのに「敵国の兵」として対峙し殺し合うことになった。
 ロシア革命を起点に戦後一旦、世界はインターナショナリズムに向かうかに見えたが、その後、再び民族主義・国家主義が台頭し、経済圏がブロック化されていった。イギリス・フランスを中心とした西ヨーロッパ圏、ドイツ・イタリアを中心とした中央ヨーロッパと東ヨーロッパの一部の経済圏、そして社会主義国ソ連を挟んで日本を中心とした東アジア経済圏、そしてアメリカ経済圏という具合である。
 ここで「国家主義・民族主義」を看板としたいわゆる枢軸側のドイツ・イタリア・日本と「自由・民主主義陣営」の西欧・アメリカ間の対立が深まり第二次世界大戦が起きた。この対立が思想的に見るとどういう意味を持っていたのかは今以て歴史学上大きな課題ではないかと思う。そこでは「お国(天皇)のために」「民族(総統)のために」と称して再び 互いにもともと何の恨みもない労働者、農民同士が殺し合うことになった。
 戦争は「自由・民主主義陣営」の勝利に終わり、その後は非資本主義経済圏であるソ連圏や中国などと「自由・民主主義陣営」の対立が表面化し、いわゆる東西冷戦時代が始まった。その間、核兵器など大量殺戮兵器による軍備拡張をテコとしてアメリカの経済がもっとも成長し、それにサポートされて旧枢軸側のドイツや日本も「自由・民主主義」(日本では平和主義)を掲げて経済成長した。
その一方でソ連圏はその指導部の考え方の致命的誤りなど(ここでも国家主義・民族主義が克服できなかった )が原因で経済的にも思想的にも衰退し、自然消滅に近い状態で消えていった。
 そして政治経済的にいわゆる「パックス・アメリカーナ」や「統合ヨーロッパ」の世界が始まるかに見えたが、それはたちまち崩れていった。「自由・民主主義陣営」の」中で克服されていなかった国家主義・民族主義が再び世界中で噴き出したのである。そのきっかけは2001年9月11日のアルカイダによるテロであった。アメリカの労働者階級は星条旗を掲げ国民的団結を叫んだ。 ブッシュ大統領はこの状況を「テロとの戦争」と位置づけ、アフガンやイラクに進出していったが結局手痛い失敗に終わった。ここでは兵役に駆り出されるアメリカの若者達の間にすでにこの戦争で殺し合いすることの無意味さが実感として拡がっていったからだ。
 この失敗を受けて登場したオバマ大統領は大統領就任以来、海外への軍事費削減を打ちだし、伝統的「自由・民主主義」にもとづく自由貿易主義によって人種を越えた平等な社会を目指すと主張されたが、その内実は自由貿易によって国境を越えて巨万の富を蓄積するのは一握りの大資本であった。生産資本の海外流出、そして低賃金労働でもアメリカで働こうとするメキシコなど貧困国(もとはといえばアメリカなどのグローバル資本がこうした貧困国を世界中に生みだしたのである)からの移民の流入などによって絶対的多数の国内労働者階級は職を奪われた。そこに今度はトランプが登場したのである。
やはりグローバル資本が経済を支配するヨーロッパ圏でも同様であった。各地のイスラム過激派のテロは宗教対立を激化させ、「対テロ戦争」に巻き込まれた国々からの移民の流入を巡ってEUという経済圏をも分断する勢いになった。
 これによって資本主義社会の掲げる「自由・平等」そしてそれにもとづく自由貿易主義は完全に破綻したのである。労働者階級内部での格差の増大が国家主義・民族主義的主張による対立を激化させ、貧困層の間でも人種的対立が深まった(アメリカのラストベルト辺りでは極貧の白人労働者層も多く存在するのである)。
 これは「自由貿易」が労働者の生みだす剰余価値(労働賃金で示される労働力の再生産費分を越えて生みだされる価値部分)を商品の価値に不当に含ませ、その国境を越えた売買によって資本家がこれを「合法的」に獲得し、一方で労働力商品を国境を越えて不当に安く獲得することができる資本主義社会の基本原理がもつ矛盾であると思う。
 だからこの問題は「TPPが悪い」とか「人種差別はいけない」とかいってもそれだけでは決して解決できるようなレベルの問題ではなく、資本主義経済体制そのもののもたらす矛盾であり、たとえば「戦争はいやだ!」といくら叫んでみても決して世界から戦争はなくならないというのと同じことかもしれないのだ。

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