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2016年11月6日 - 2016年11月12日

2016年11月12日 (土)

トランプ次期大統領に関する論議を巡って(2)

 このブログを書いている最中に、ある資本論講読会に参加している若いアメリカ青年H氏による今回の大統領選への分析と見解を知る機会があった。それはわれわれ日本人がマスコミによって知るクリントン、トランプ像とはかなり異なるものであった。

 マイノリティー支持を表明しアイデンティティーを旗印にしているオバマ政権が実は共和党の主張とあまり違わない社会保障の事実上の縮小やメキシコからの移民への圧力を行使し、国境の壁をすでに作っているという事実も私にはある種の驚きだった。 H氏は、いまの民主党も共和党と同じ様に新自由主義の支持者である。そしてその新自由主義そのものがいまその矛盾を露わにして壁にぶつかっているととらえている。彼はヒラリーを「資本主義の問題を隠すイデオロギーを作る天才」とまで言っている。そしてトランプはそうした新自由主義的な方向と異なる方向に資本主義を向けさせようとしていると彼は捉えている。
 一方、サンダースはこれまでの民主党的秩序に反対し、社会保障の充実や貧困層への予算の投下を主張したが、クリントンのアイデンティティー主張に抵抗できず、「黒人と違って白人は貧困を知らない」という発言をし、「労働者階級内部の分裂も資本主義の矛盾や階級制度に由来した人種制度も当然のこととし、レイシズムは無歴史的で不可避なことだと主張した。つまり階級という視点を放棄して、結局ヒラリーのアイデンティティーからの距離を失った」と述べている。
 H氏によればトランプはこれまでの共和党の主張にはなかった、人種・ジェンダー・宗教別にみんなに仕事を与えようと言っており、new"new deal"政策など資本主義の改良を目指している。そしてH氏は「アメリカでは肉体労働や製造をするなんて無理だという意見はあるが、この意見は資本家とオバマ・ヒラリーの考えと一緒だ。"the naturalization of neoliberalism"(新自由主義以外に他の可能性はないという意見)だと思う」と言っている。そして「トランプは簡単に資本主義の形を変更できないが、資本家と企業は社会経済全体のためにある程度損害を被らないといけないと主張している。この変化はアメリカだけではなくイギリスも新自由主義とちょっと違う道をとりつつある。資本主義の歴史では、労働者が今より強い立場を得ても資本主義は存在できる」そしてさらに「もちろん前のnew dealが失敗したように、トランプの資本主義改良も失敗するはずである。資本主義が続く限り、改良が一時的に進んでも最終的に失敗する」と述べている。
  最後にH氏は次のように主張する。「ヒラリーとオバマとアメリカのほかの新自由主義者によると、政治で資本主義の方向を変えることは不可能である。トランプは労働者に向けこれに反対し、経済を政治的問題にした。政治の可能性を支持したので、ヒラリーよりトランプの方が社会主義政党にとって好ましい敵だと思う。彼のnew dealが失敗する時に、社会主義政党はこの機会をつかんで労働者に資本主義の欠点を説明し、労働者を指導しなければならない。」
 こうした分析と主張はこれまでの私の見方とかなり違うのであるが、少なくとも私たち日本人の現状認識(マスコミなどによる)よりはるかにリアルであると思われる。
 そこでこうした分析と主張を踏まえて私の考察を続けることにしよう。
{続く)

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トランプ次期大統領に関する論議を巡って(1)<修正版>

 トランプが次期アメリカ大統領に決まってまだ2〜3日しか経っていないのに、マスコミはこれを巡る論議で一杯である。これらの問題をどう整理してよいか難しいところであるが、今朝の朝日新聞「オピニオン」欄での社会学者イマニュエル・ウオーラーステイン氏のインタビュー記事は問題が一応包括的に述べられていて面白い。これについては別の機会に触れることにする。

そこで私はこれらに通底する資本主義社会の今後の行方についてトランプ登場がどのような意味をもっているのかという視点で何回かに渡って考えてみようと思う。
 1980年代末〜90年代前半ソ連圏崩壊以降、アメリカの一極支配が叫ばれてきたが、そのさなかにユーゴ分裂内戦、直後に湾岸戦争が起きた。そして2001年アルカイダによる国際テロが始まり、イラク、アフガン戦争へと発展、「世界の警察官」アメリカは苦境に立たされ、アメリカ軍事力の一極支配はまぼろしとなりつつあった。
 一方で中国が鄧小平の「開放改革政策」以後著しい経済的発展を遂げ、21世紀初頭には「世界の工場」になりつつあった。ソ連崩壊で経済的危機にあったロシアも石油・天然ガス資源などを半私有化した新興資本家が登場し、これと手を組んだプーチン政権が半独裁的政治体制を築き、経済的に復興し始めた。
 他方1990年代後半の日本では「バブル崩壊」が起こるべくして起き、深刻な経済状態となって、以後20年近く続くいわゆる「デフレ状態」に入り、労働市場は「就職氷河期」となり失業率も急増した。1980年代の「バブル経済」そのものが実は日本の資本主義経済破綻の前兆であったといえるだろう。
  アメリカでは1990年代から始まった「IT革命」によってコンピュータ関連、インターネット関連の新興資本家が次々と登場し、軍事的衰退と裏腹に一定の経済的繁栄期が訪れるかに見えた。日本の経済状態もそれに助けられてある程度復活するかに見えたが、2008年のアメリカでのサブプライム・ローンの焦げ付きに端を発する「リーマン・ショック」によって世界的な経済恐慌が訪れた。ここでアメリカの一極支配は経済的にも確実に崩れ始めたと考えられる。
 アメリカ社会はすでに労働者階級が、何十年分もの賃金の前借りをしなければ住むための家を持つことができず、それを資本家的利潤に結びつけようとする金融資本の欺瞞的ローンシステムがつまづき、崩壊したのである。それ以前から労働者階級は苦境に立たされていて、かつての「中間層」上層部の労働貴族たちも急速に崩壊しつつあったと考えられる。リーマン・ショックはその顕著な現れとみてよいだろう。
 リーマン・ショックにより ヒスパニック系やアフリカ系などの移民を中心とした下層労働者階級が特に惨めな状況に落としこまれ、こうした人々の支持を得て、オバマ政権が登場したといえるだろう。しかし、その一方で没落した白人系の「労働貴族」たち(彼らの多くはアメリカ資本主義絶頂期に資本家側からの「おこぼれ」によって高賃金を得てどんどん高価な消費財商品を購買するによって消費面から資本主義経済を支えていた人々である) は自分たちの職が奪われたのは移民を中心とする低賃金の下層労働者のせいだと主張し、またオバマ政権がヒスパニックやアフリカ系労働者ばかり支援して自分たちを置き去りにしているとして、白人中心主義の共和党右派を支持するようになったと思われる。
  しかし事実は「世界の工場」の座を獲得しつつあった中国やメキシコなどへアメリカ製造業資本の生産拠点の移転や、国内工場での「生産の合理化」による労働者削減が彼らの雇用を脅かしていったのである。
 オバマ政権は核廃絶・銃規制の実施、社会保障の充実など「リベラル派」としての政策を打ち出したが、いずれも議会で多数派を占めた共和党に反対され事実上挫折した。他方経済政策ではアメリカ大資本の後押しで TPPに代表される自由貿易協定を推進しようとしたのであるが、結局はこうした「リベラル派」特有の中途半端な政策の流れの中で下層労働者階級と「中間層」を自認していた没落白人労働貴族たちとの間に深い溝ができていったと考えられる。そしてそれが今回の大統領選挙で爆発したと考えるべきであろう。
 「中間層」上層部から没落した白人労働者層と「中間層」下層部分を形成していたり、もともと下層労働者であったヒスパニック系やアフリカ系の労働者は、ともに崩壊しつつあるアメリカ資本主義経済の犠牲者という同じ立場なのであり、その反面でそれらの犠牲者の上に立って、海外の低賃金労働から吸い上げた莫大な利潤を獲得して行った一握りの支配階級が「成長」したのだ。この極端な格差の拡大は崩壊しつつある資本主義経済という一つのコインの裏と表を成す両面なのである。
 こうした状況の中で、労働者階級同士がは互いに敵対し憎み合うことは支配階級にとっては好都合なことである。支配階級層の一員であるトランプがあたかも労働者階級の一方の側の味方であるかのように振る舞うことで、大統領の座を得ることに成功した。ここでは白人労働者を中心とした旧中間層上層部は事実上支配者側の「手先」になっていたわけである。
  支配階級はつねに決してあからさまに支配階級としては現れず、こうして背後から被支配階級を分裂させ統治を維持していくのである。そのことはオバマ政権にも言えるだろう。「リベラル派」は結局労働者階級の要求を容れる様な形を見せながら、実際には支配階級による政治経済体制を維持させて行っているのであり、オバマの"We can change"は結局社会変革への強い要求をはぐらかすための「ガス抜き」でしかなかったことが分かる。
  アメリカの民主党と共和党という2大政党は両者とも支配階級の代表なのである。アメリカに本当の意味での労働者階級を代表する政党はまだ成長していない。
 世界的に見てもグローバル資本の支配が進めば進むほど労働者階級間の対立や争いが多くなっており、多くの場合、労働者階級内での対立を起こさせているのは国家主義や民族主義など支配階級側のイデオロギーに「洗脳」された労働者階級の人たちなのである。彼らを本来の労働者階級の側に引き戻し、互いに手を結んで本来闘うべき相手を明確にさせることが可能かどうかが現下の最大の問題と言えるのではないだろうか?
(続く)

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2016年11月 9日 (水)

没落しつつあるアメリカに登場したトランプ次期大統領の行方

 マスコミなどおおかたの予想を裏切ってドナルド・トランプが次期大統領に選出された。なぜクリントンでなくトランプが多数の支持を得たのか?それはそれまでの共和党ブッシュ政権による政策がもたらした多くの失敗に対し、大多数のアメリカ人の期待を受けて登場したオバマ民主党政権が8年の間にその期待に応えてくれなかったことへの大きな不満と失望があったと思われる。

 特にかつては「中間層」といわれる階層に属していた労働者階級の多くがいまや下層に甘んじなければならなくなった現実、そして巨額の富が一握りの「既得権者」の手に握られてしまったことへの恨みがある。「リベラル派」を旗印としたオバマ政権はそれに対して、「オバマケア」などの国家プロジェクトで下層への配慮を示したが、共和党を中心とした「自助努力」派からは嫌われ、外交的にも核廃絶を掲げながら、イラク・アフガニスタンやシリアなどでの紛争への派兵がアメリカの若者たちに大きな痛手を与え、有効な手を打てないまま「世界の警察官」から実質的に退いてしまった。その上、北朝鮮の核兵器開発をも結果的に許してしまった。
こうした期待外れのオバマ政権に対して次期大統領選での不満と怒りが爆発したのであろう(なんとなく日本の民主党政権が敗北して安倍政権が登場した時に似ているが)。トランプとサンダースへの支持の盛り上がりはその現れであろう。サンダースはクリントンの勝利に資するため退いたが、トランプはそれによってかえって有利になったと思える。
 ところで根っからの「アメリカン・キャピタリスト」である不動産王のトランプが下層労働者の立場に立つと見えるのは、既得権益によってではなく、「自助努力」のみによってゼロからでも自分の様な立場に立つことができるのだ、ということを彼が示したからであろう。これがアメリカン・キャピタリストの真骨頂であろう。
 しかしよく考えてみれば、現在既得権者となっている一握りの連中も実はトランプと同じようにして出世した連中が多いのである。つまりトランプも大統領という最高権力を握った後は、既得権者の頂点に立つことになるのだ。アメリカの労働者階級はやがて既得権を楯にするであろう彼にも失望するだろう。
 アメリカン・ドリームで出世した新興資本家は、資本家同士の激しい競争に打ち勝ちながら世界中の労働者の労働が生みだす富を吸い上げ、巨万の富を握る既得権者に成り上がったのである。
 新興資本のアップル創業者スティーブ・ジョブスがかって何かの会合でオバマ大統領と同席したとき、オバマが「アメリカに製造業のパワーを取り戻すことができるだろうか?」と聞いたところ、ジョブスが「無理ですね。中国の労働者の様に安い賃金で優秀な製品を生みだす労働者はアメリカにはいませんから」と応えた話が有名である。
 トランプは「ラスト・ベルト」での遊説でアメリカに製造業を復活させると嘯いているが、無理であろう。いまアメリカ国内で生産する製造業で巨万の富を握ることはできず、新興の資本主義国の低賃金労働が必須であるからだ。最盛期にある資本主義国では労働者の賃金を相対的に高くしても資本家はそれによって競争に負けないで済んでいたが、国際市場での競争が激しくなると少しでも労働賃金の安い国で生産しないと商品市場で勝つことができなくなる。したがって自国の高賃金労働者は「合理化」と称して機械に置き換えられるか、会社の利益減少を理由に「人員削減」され、中間層から下層へと転落せざるを得なくなるのである。
  かつてヴィクトリア女王時代に「世界の工場」であったイギリスはその後モノづくり産業が消滅し、後進資本主義国であるドイツやアメリカにその座を奪われた。そしてその後アメリカが日本にその座を奪われ、いまや日本が中国やアジア諸国にその座を奪われつつある。こうして価値の源泉である生産的労働によってモノを生みだしている国が資本家的価値増殖のための主導的立場に立つのである。その他の資本主義国はそこから生みだされる価値を流通の過程でうまく獲得するか、その「おこぼれ」を導き出すかによって経済を成り立たせて行くしかない。それは資本主義的生産様式の必然的「運命」ともいえるだろう。
さあ、トランプはアメリカ株式会社のCEOとしてアメリカの労働者階級を解雇せずにどうやって競争に勝っていくのだろうか???

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