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2017年1月23日 (月)

「ザ・リアル・ボイス」続編で観るアメリカの「自由・平等」の実情

 昨年3月にNHK-BSで放映された「ザ・リアル・ボイス」(このブログでも取り上げた)という番組の続編を昨日やっていた。今回もアメリカ各地にある大衆食堂「ダイナーズ」にあつまる客の声からアメリカ社会のリアルな本音を聞き出そうという番組である。

 今回はアメリカの新大統領に決まったトランプをめぐってアメリカの一般大衆の生の声を聞こうというもので、トランプ支持派が多いとされる「ラストベルト」のダイナー、メキシコからの不法移民が多いとされるアリゾナ州フェニックスのダイナーそして反トランプ派が多いとされるロサンジェルスやニューヨークのダイナーなどでの取材だった。
 まず、ロスやニューヨークでは学生達や女性達が「トランプは我々の大統領ではない」というプラカードを持って大規模なデモを行っている様子があった。そこではトランプ支持派のグループとの激しいやりとりの場面もあった。ダイナーでの本音の中にはこうした抗議の仕方そのものに疑問を持ち、こういう抗議の仕方が対立を深めることになるんだという客もいた。またトランプが大統領に選ばれてしまったのだから見守るしかないと半ばあきらめている人もいた。
 フェニックスでは食うために職を求めてアメリカにやってきた「不法移民」たちと、すでにアメリカの市民権を得ているヒスパニック系移民との間で意見が異なっていた。メキシコとの国境添いに壁を作ることに賛成しているヒスパニックもいるのである。
 そしてデトロイトなどの「ラストベルト」では、かつて「偉大なアメリカ」のシンボルだった「豊かな中産階級」の主役であった白人労働者達が、会社が労働力の安い国へ生産拠点を求めて国内の工場を閉鎖していくため、失業したり転職したりしなければならなくなった状況がある。
こうした人々がトランプを大統領に推す大きな力になってきたのであるが、いまその実情は少し予想とは違ってきていた。
 トランプがメキシコに工場を新設するといっていたGMにクレームを付けたため、GMがそれを撤回してアメリカでの雇用を増やすといったためトランプはそれを「オレの成果だ」と自慢したのだが、実はGMの多くの非正規雇用労働者がその後解雇されている。護られたのは正規雇用の労働者だけであった。そしてダイナーではそれまで親しくつきあってきた労働者達の間で、正規雇用と非正規雇用の溝が深まっていく様子が窺えた。
 こうしたアメリカの現状を見るにつけ、アメリカではこれまで何とか外面を取り繕ってきた「自由・平等」の原則がその内部では実は一度もちゃんと実現したことがなく、しかも徐々にその「たてまえ」と「本音」の間のきしみが大きくなっていっていたことが分かる。「分断」はいまに始まったことではないのだ。ただそれが覆い隠されてきたに過ぎないのだと思う。
 オバマ大統領が就任したときには、本当に「自由・平等」が実現されるかもしれないという期待から"Yes we can, yes I can"が合い言葉になったが、それは結局実現されず、内部でますますきしみが大きくなっていたのだろう。そしてその不満がトランプの「暴言」によって代弁されたため、一気に彼に期待が集まったのだろう。
 こう考えると、アメリカの「自由と平等」がいかに幻想に過ぎないものであったが分かると同時に、その根源に、多民族国家アメリカでのグローバル資本の支配の拡大とそのもとで分断され団結力を削がれてきた労働者階級の現実の複雑さが見えてくる。
 東西冷戦中は社会主義圏に対抗するための国策が戦争で過剰資本から解放され巨額の富を蓄積したたアメリカ資本と結びつき、労働者の生活資料(家電製品・クルマなどを含む)生産をもその資本の成長の一環に組み込むことができたため、労働者階級は「豊かな生活」を謳歌することができたが、その後東西冷戦は終わり、「アメリカ一極世界」となってからは資本が急速にグローバル化し他の資本主義諸国との世界市場での競争を激化させていった。
 そこでアメリカ資本主義は「自由・平等」の看板のもと「世界の警察官」として振る舞おうとする国家指導部と資本の論理のもとで労働者への搾取体制を深めざるを得なくなっていったグローバル資本との間での齟齬が生じていったのだろう。これまでの政権は何とかそれを取り繕って行こうとしたがうまく行かず、いまやその内部矛盾は覆い隠すことができなくなったのだと思う。
 トランプ政権のもとでこうした複雑な問題がうまく解決されるはずがないことは明らかだ。そしてアメリカ社会はいよいよその資本主義社会末期の混乱と苦悶の時代を迎えることになるだろう。

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