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2017年3月21日 (火)

グローバル資本の矛盾(自由貿易市場において分断される労働者階級)

 20世紀末には、世界を支配するグローバル資本体制に反発する独裁国家や過激な宗教集団による挑発が相次ぎ、それに対抗するためにアメリカが中心となって引き起こしたイラク・アフガン戦争という形で噴出した。これは国際的なテロや民族的対立を巻き込みながら、今日の中東の混乱につながり、それに加担する勢力や国々との間で複雑化した対立構造を生み出しその犠牲者はすでに数十万にも達していると言われている。これは一方ではアメリカを中心とした陣営にとって「社会主義」という宿敵を失ったという意味で「錦の御旗なき戦争」であり、同時に他方でグローバル資本市場の支配にむりやり引きずり込まれた非アメリカ的文化圏に生活する人々によるその支配への抵抗でもあったと考えられる。

 アメリカの若者たちもこれらの戦争の「正当性」に疑問を持ち、やがてそれを推進したブッシュ大統領は政権の座を追い落とされた。そして時を同じくしてアメリカ型資本主義経済は「消費者金融」の破綻から始まった「リーマンショック」という形でその矛盾を爆発させて行き詰まってしまった。その後に登場したオバマ政権は「自由貿易」を推進させグローバル市場でのアメリカの優位を保つことで経済の立て直しを行い、同時に国家予算にとって大きな負担となっていた東西冷戦で肥大化した軍備の縮小を進めた。そして格差が広がる社会での貧困層の不満解消ため「オバマケア」などの救済策を取り入れようとした。しかしそれはやはりアメリカ型資本主義路線の延長上にあったため、グローバル資本特有の矛盾から逃れられなかった。

  アメリカとEUそして日本などの資本主義諸国ではこれまでそれぞれの国内で国家的に重視される産業がグローバル資本の競争に晒されることで成り立たなくなることを恐れ、特定の分野に関税障壁を設けてきたが、ここに来て文字通り資本の回転と流通を遮る国境は取り払われ「自由貿易」が目指されようになった。しかし、それら自由貿易を主張するグローバル資本が支配する各国の労働者階級側には賃金格差を利用するために事実上国境の壁を高くする必要があるという矛盾が顕在化した。一方で「国境を越えた自由で平等な商品取引」を主張しながら他方で自国の労働者階級にはナショナリズムを注入することで「国民的結束」を促し、国境を越えたインターナショナルな階級的連帯を阻止しようとする。これがグローバル資本の本質的矛盾であり特徴である。

  そのことはEUではシリア内戦から逃れヨーロッパに移住しようとする難民問題に顕著に顕れた。EU域内でさえ、それを構成する国々の間で労働賃金の差があり、一方では労働賃金の安い国から高い国への労働者の移住が進み、他方ではまた西欧の有名ブランド商品の生産拠点が労働賃金の安い東欧の国へと移されていった。実際は賃金の安いブルガリアで作られていてもフランスの有名ブランドならば市場では実際の価値より遙かに高価に売れる。これが「ブランド価値」という名の「付加価値」である。
 そこにシリアや中東からの難民がどっとEUに押し寄せることでEU域内では難民を阻止するため壁が作られる国々と、それに反対して人手不足を補うために賃金が安くても働く難民を新たな労働力として受け入れようとする国々が対立するようになった。
 アメリカでは、メキシコをはじめとして中南米諸国からやってくるヒスパニック系移民とアフリカ系黒人たちが社会の底辺でのきつい労働を低い賃金で働く労働者として必須の存在になっている。その一方で自動車産業やコンピュータ産業などではグローバル市場での競争力をつけるために労働賃金の低いメキシコや中国が生産拠点となりそれらの国で低賃金の労働者によって製品が製造される。そのためアメリカ国内では高賃金で単純労働に従事していた白人労働者たちは職を失っていった。彼らは「アメリカ人」としてのプライドも傷つけられたのである。
 移民を受け入れるか拒否するかは決して「寛容と非寛容」の問題などではなく、純粋にグローバル資本主義経済の論理の問題なのである。
  一方日本の場合はこれとは違って、主として国内での長時間労働の常態化と非正規雇用による低賃金労働が日本におけるグローバル資本の世界市場での競争力を支えている。
 そして「アメリカ・ファースト」を叫ぶトランプの登場である。トランプは軍事的にも経済的にも行き詰まりを見せていた「リベラル」派オバマ政権に取って代わって排外主義的主張によって大統領になった。
 トランプはアメリカが「世界の警察官」であることをやめると言いつつ巨額の軍事予算増強を図る。またメキシコとの国境に壁を築き、不法移民の流入を防いで国内の雇用を増やし経済を活性化させると言いながら、グローバル資本の論理に反するような保護貿易主義を採り、かえってグローバル市場でのアメリカを不利な立場に追い込みつつある。
 しかしアメリカの労働者階級の多くの部分はトランプを支持し、彼が労働者の味方であると信じ込んでいる。
 トランプは、ある意味でヒトラーと同様、労働者階級にナショナリズムを吹き込むことで資本主義経済の矛盾を覆い隠し排外主義的な方向に目を向けさせ、強大な軍事力を背景にグローバル市場に圧力をかけようとしているかのようだ。それはグローバル資本主義のもう一つの顔である。そこには相変わらず労働者たちを深く考えさせない仕組みが働いており、そのために利用されきたマスコミを逆に敵に回すかのような振りを見せつつ、巧みにそれを操作しようとしているようだ。
 ヨーロッパでもドイツなどEU主導グループに代表される「リベラル派」的政策への反抗として急成長した「ポピュリズム」グループが注目されている。オランダ国会議員選挙で主導権を握るかもしれないと言われていた排外的「極右派」ウイルダース党首率いる自由党が主導権は取れなかったものの第2党に進出した。次はフランスの大統領選が焦点である。一方BREXITを選択したイギリスではスコットランドが独立への国民投票を再度強行すると言いだしメイ首相と対立している。
 トランプの政策は今のままでは成功しそうにないし、EUから離脱したイギリスもこの先多難だろう。問題はそれら欧米資本主義社会の「ポピュリズム」が頓挫した後である。既成「リベラル派」が政権を奪還してもそれは決して長続きしないだろう。なぜならそれは同じ穴のムジナなのだから。そこに軍事力の増強をバックに世界市場の支配を目指す中国やロシアが噛んでくることで、世界はますます危機的な状況になりかねない。
 アメリカでもヨーロッパでもそして日本でも労働者階級はいまや袋小路にはまって崩壊寸前になっているグローバル資本主義の元で、いまだに繰り返されるポピュリズム的ナショナリズムとその反面であるリベラリズムへの回帰という振り子の様な運動から抜け出すことができず、本来必要なインターナショナルな階級的連帯からはほど遠い状態にある。このままでは歴史は前に進まない。
 

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