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2017年7月27日 (木)

朝日新聞 論壇時評「AIが絶対できないこと」の致命的落とし穴

 今朝(7月27日)の朝日新聞「論壇時評」に歴史学者 小熊英二氏が「AIに絶対できないこと」と題した評論を書いている。

 小熊氏はさまざまな論者の指摘や事例を挙げ、 AIは過去のデータから推論出来ることしかやらないから、既存の考え方やこれまでの傾向の枠組みでしか予測ができず、新しい提案やイノベーションはできない、とAIの基本的限界を突く。そして「新技術の導入だけで経済が成長するなどという期待は、高度成長への誤解に基づくノスタルジーにすぎない。古い社会や古い政治を延命するためにAIを使えば多くの人が犠牲になる。それこそ「人間がAIに負ける」という事態にほかならない。そうでなく、AIと共存できる社会に変えていくために、人間にしかない英知を使うべきだ」と主張し、最後に藤井四段がAIに勝てるか?という疑問に対して「彼は勝とうとしていない。AIを相手に練習し、AIを自分を磨く道具にした。まるで、自動車と競争するのではなく、自動車を使いこなすべく社会を変えた人々のように。」と結んでいる。
 小熊氏はAIにはできず人間にしかできないことは、これまでの枠組みにこだわらず、新しい変革ができることだ、というのであるが、もしそうであれば、AIを含む、本来人間にとっては「道具」にすぎないものに、なぜ人間の生活や生き方が支配され振り回されるのかを考えるべきであろう。
  AIやITなどの技術を「変革」の道具として考えているのは社会の経済や技術を一手に握っている人たちであり、フツーの人々は、そのひとたちの思惑に文字通り支配されている。
  モータリゼーションでクルマが人間の生活形態を変えていったとき、それは「便利な生活」というコトバが生活のすべてのありようを変えていった時代であった。生活消費財が高価な「耐久消費財」という機械製品に取って代わられ、TV、冷蔵庫、クーラー、自動車が生活必需品化されていった。決して高くない賃金からローンを組み、これらの高価な耐久消費財を苦労して買った。全国に自動車道路が整備され、電気供給などのインフラがどんどん拡大され、原発がどんどん建設された。
 そうした「技術革新」による生活の変化の中で一方では天然資源がどんどん消費され、それと比例して自然環境はどんどん破壊されていった。
 そして、東日本大震災の様な大災害が起きると、フツーの人々は家族の命を奪われるとともに、生活の場が破壊されそれまで使っていた家財のすべてががれきの山となって積み重なってしまった有様を見て、これまで生活が便利になるためと思って受け入れてきたことが一体何だったのか分からなくなるのである。
  「便利な道具」がすべて失われたとき、自分たちの生活や生きる意味がなんであったのか、何のための「便利」だったのかに疑問を感じざるを得なくなる。つまり「便利な生活」は技術や経済を一手に握っている人たちにとっての「経済成長」にとって必要なことだったのであり、いわば「トップダウン的革新」であったことを思い知らされたのだ。
 こうした状況が続く中でAIは人々の生活をトップダウン的に変えていくだろう。AIやIoTなどの技術を競い合い「イノベーション」を推し進める人たちは、彼らの「経済成長」や「競争力強化」のためにフツーの人々の生活や生き方そのものを「経済成長の道具」と考え、その未来までをもコントロールし、支配しようとしているのである。
 AIがそのような人々の「道具」である以上、フツーの人々は「AIが人間を支配する日が来るかもしれない」という不安を抱くのは当然である。
 付け加えておくが、AIは「これまでの枠組みからの推論しかできない」というのは考えが浅い。AIはやがてこれまでの枠組みを外して新たな「イノベーション」の可能性をも提供するようになるだろう。すでにそうした「AIの創造性」に関する研究が進んでいる。これが実現したとき、フツーの人々はさらに人間としての基本的要素である「創造性」すら支配されてしまうことになるだろう。

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