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2017年8月 5日 (土)

「EV(電気自動車)革命」を推進するグローバル資本の行方は?

 昨夜から今朝にかけてのマスコミのトップニュースで、トヨタとマツダの資本提携が取り上げられていた。その背景にあるのは、世界的なEV化推進の動きである。完全な電動でしかもネットにつながり、AIによる安全運転も保障されているクルマをつくり、近い将来現状の化石燃料を用いた排気ガスを出すクルマを全廃しようというのだ。

 これは一見、危機に瀕している地球環境悪化、特に温暖化の元凶となっているCO2を世界的に規制しようという動きの一環であるように見えるし、たしかにそういう効果はあるが、その背景には、これまで自動車産業先進国だったがアメリカやヨーロッパが、日本や韓国などの新興自動車産業に押しまくられるようになってひさしい現在、それをまったく新しい産業構造の中で作り替えようとする思惑があるように思われる。
 日本では早くから排出ガスの規制が厳しく、これに応じてトヨタがハイブリッドエンジンの技術では世界トップにまで登りつめた一方、ヨーロッパではメルセデス、フォルクスワーゲンなどがこれに対抗してクリーン・ディーゼルエンジンの開発に力を入れてきた。しかし、それは結局失敗に終わったといって良いだろう。
  一方、アメリカでは、GM、フォードなどかつて世界自動車産業を牽引してきた巨大企業がいずれも振るわず、低迷している中で、テスラ・モーターズという新興企業がEVの開発を始めた。このテスラという企業は、昔、真空管時代にアマチュア無線をやっていた人にはおなじみのテスラ発振回路の生みの親テスラ博士の流れを汲む会社である。小さな会社であったがここ数年急成長し、最近のアップルやグーグルなどのIT技術新興企業と手を組むことによって、まったく新しい自動車の世界を生み出しつつある。
 こうした状況にはアメリカ特有のベンチャー企業育成環境があり、小さな企業が新技術で名乗りを上げると、それが将来大きな富を生み出しそうであれば、たちまち多くの投資を呼び込むことで多くの開発資金や人材を獲得していけるシステムがあるからである。こうしてアメリカでは旧大企業の身動きならなくなった体制を土台から作り替えるパワーを養っている。
 こうして世界では、2040年頃までにはEV車が主流になりそうであるが、それはグローバル資本の世界にどのような影響を及ぼすであろうか?
 (1) まず頂上に巨大自動車企業があって、その配下にピラミッドのように膨大な裾野を拡げる下請けや孫請け企業が構成する自動車産業の構造が大きく崩れるということである。ある情報によれば従来のガソリンを中心とした自動車に必要であった部品数が40%近く減る。そしてモータや電子部品などがそれに取って代わる。つまりこれまで長年世界に誇る日本の「モノづくり技術」を育ててきた中小企業の大半が「役立たず」として切り捨てられるのである。
 もちろんこうした中小企業はそれでも新しい流れに乗るべく必死にあらたな技術を磨き上げていくだろうが、その過程で「モノづくり」をその現場で支えていた多くの 熟練労働者たちが職を失っていくことになるだろう。
 このような日本のモノづくり産業がスタートラインにリセットが掛けられるため、一方で同じスタートラインに立つ中国など日本より労働賃金の低いあらたな新興「モノづくり国」の企業に追い立てられることになるだろうし、それが「モノづくり立国」を崩壊させることにもなりそうだ。ここに新たな日本の「ラストベルト化」が生じることになるかもしれない。
 (2) そしてもうひとつ、ガソリン輸出などで莫大な富を築き上げてきた石油産出国が、石油に頼れなくなり、これまで蓄積してきた莫大な資本を使って新たな生き残り戦術を打ち出さねばならなくなる。おそらくこうしたこれまで石油で蓄積したマネーは新たなEV産業への投資や第3次産業(スポーツ・娯楽・観光などの不生産的産業)への投資、そしてひょっとすると兵器産業などにも莫大な投資をしてその上まえをハネることを狙うかもしれない。「オカネで買えないものはない」がグローバル資本家の「哲学」なのだから。
 (3) そしてさらにEVはバッテリーで動くのであって、いま主流になりつつあるリチウムイオンバッテリーはレアメタルであるリチウムのほとんどが中国の大地から産出されている。おそらく今後爆発的に需要が増えるLiバッテリーの生産で資源も労働力も製造技術も圧倒的に有利なのは中国である。つまり石油産出国に変わってレアメタル産出国である中国が巨万の富を蓄積するチャンスを得たのである。
  中国は一党独裁権力を用いてグローバル資本を取り込んでいる特殊な国であるが、それを支えているのは13億の人口から生み出される膨大な数の労働力とその資本への隷従である。あらゆる意味でこの国の成り行きには目が離せない。
(4) 最後にグローバル資本は、あらたな「自動車産業革命によって安全で便利なクルマ社会を創出する」と大々的に宣伝するが、本当はいかに儲けるか、そしていかにその富の獲得競争に生き残れるかしか眼中になく、その過程でいかに多くの労働者が職を奪われ、人生を無意味化され、そして孤独な死に追いやられるかなどという問題には無関心なのである。
  そしてそれらを支援する国家の政府も形の上では「国をゆたかにするには経済成長しかない」「そのためには一定の痛みを伴うこともやむをえない」としてこうした犠牲に目をつむるのである。
 

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