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2017年8月15日 (火)

Nスペ「戦慄のインパール」を観て

 昨夜の「731部隊の真実」に続いて、終戦記念日の今日のNHKスペシャルでは、「戦慄のインパール」を放映していた。

 かつて若い頃に竹山道雄の「ビルマの竪琴」を読んで、深い感銘を受けた記憶と、私が高校時代に英語の教師だった人がインパール作戦に参加した兵士だったことを思い出した。
 戦争の敗色が濃くなっていった頃、大本営ではすでに占領していたビルマからインドに進出することで戦局の劣勢を跳ね返そうとするインパール侵攻作戦を立てた。その作戦は最初から無理を承知でその兵站の困難さから3週間の短期決戦により決着をつけようというものだった。しかもこの作戦は大本営内部での人脈関係の中でそれぞれ上層部の「業績」を上げさせるためのチャンスとして進められ、牟田口司令官がそのトップに立って実行する運びとなった。
 そしてその作戦は400キロ以上もの密林中の道なき道の行軍によって行うため、トラック輸送もままならず、現地の少数民族のムラから牛を調達して荷物を運ぶような状態だった。
 そのような無理な状況で開始した作戦で、途中イギリス軍からの猛攻に遭い多くの戦死者が出たが、作戦は継続された。とっくに3週間を過ぎて何ヶ月も続けられた作戦で食料は尽き、兵士は弱っていき、戦死者や病死者が続出したが作戦は停止されなかった。
 その背景では、この勝ち目のない戦いに終止符を打たせようとする軍内部の反対意見を強硬に退け、失敗を現地指揮官の不手際としてそのクビをすげ替えてあくまで「死守」の命令を出し続けた牟田口司令官の存在があった。しかし、ついに牟田口も最前線の悲惨な状況を知るにおよび、作戦の中止を余儀なくされることになった。
 そこから数万の兵士の悲惨な撤退が始まった。追撃するイギリス軍の猛攻とすでに兵站もなく、始まった雨期の猛烈な雨の中を空腹や伝染病や負傷で弱った兵士を見捨てて撤退する日が続いた。この作戦の生き残りの元兵士の発言や当時牟田口司令官の部下でこの作戦の進捗状況を記録していた斉藤少尉の手記からは凄惨な戦場の姿と司令官の引っ込みのつかなくなった強硬な態度が紹介されていた。まさに地獄の様な有様で、密林の道は死体の山を築いていった。そして途中大河を渡りきれずそのほとりで多くの兵士が死んでいった。
 この作戦で死んだ兵士は3万人に上り戦傷者は4万にもなったそうである。
ところが司令官牟田口は作戦中止後いち早く戦場から日本に帰国した。そして敗戦後の戦争裁判での法廷ではこの作戦の命令は上部からのものだったと証言していた。
 しかも、牟田口は戦後20年以上生き延び、その子孫が初めて公開した資料によると、回顧の中で当時ビルマ戦線で戦った相手のイギリス軍の司令官と手紙のやりとりをしていた。イギリスの元司令官が牟田口に「イギリス軍が苦しめられた」としてあの作戦に一定の評価をしたと感じ、そのことを回顧録的録音テープに収めていた。
 牟田口はその中で「私は戦後ずっと牟田口は馬鹿野郎だとさんざん悪口を叩かれてつらい思いをしてきたが、やはり私のやったことは正しかったということが分かってうれしい」と言っているのである。
 何ということだろう!大本営の無責任体制の中で身勝手に発せられた作戦命令のもとで、どれほどの兵士が地獄のような経験をし、命が失なわれたのか、その痛みを司令官として何一つ感じ取っていないこの男!こういう人間があの戦争を牛耳り、何十万という尊い命を奪い街を破壊させ、そして自分たちはおめおめと戦後に生き延び何も反省していないという事実。
  一方彼の部下だった斉藤元少尉は、いまも存命中でクルマ椅子に乗せられてインタビューに応じていた。彼は自分の書いた記録を見せられると顔を歪めて「見たくない」とつぶやいた。そしてしばらく沈黙したのち涙声で「悲しい!」と叫んだのである
 731部隊で「マルタ」を人体実験材料に使ったにも拘わらず戦後学会の権威にまでなった学者先生といい、このインパール作戦を強行した司令官たちといい、失われた一人一人の兵士や市民の生活と命の重さを何一つ感じていないのである。
 例の私の高校時代の英語教師だった人はこの作戦でどれほどつらく過酷な経験をしたのであろうか、彼はそれについてあまり多くを語らなかったので分からない。しかしあるとき、修学旅行のときであったろうか、その先生とフロ場で顔を合わせたとき、その背中に大きな傷跡が残っていることを知った。
 人の真価はその人の生き様で分かる。どうすることもできない歴史の流れの中で翻弄され地獄の苦しみを経験しても人間としての真価を持ち続けることの出来た人と、己の地位と立場と名誉のために何万人の人が死んでも意に介しない人がいるということをキモに銘じておこう。
 戦争はその違いを見事にあぶり出してくれるのだ。

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