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2017年3月26日 - 2017年4月1日

2017年4月 1日 (土)

コメントにお応えして

 mizzさんから久しぶりにコメント頂いた。朝日朝刊の小熊氏の論壇記事への私の意見に関してである。

 おっしゃるとおり、たとえ非正規雇用労働者の時給が2,500円になったとしても彼らが正規雇用を選ぶか非正規雇用を選ぶかではなく、雇用する企業側の問題なのだ。労働者が自由に自分の雇用者を選ぶことは資本主義社会ではできない。
額面上はそうなっていて、就活などでもインターネットで自分の行きたい会社を選んで就職試験を受けに行くが、そのときすでに自分がその会社に雇ってもらる可能性の予測のもとに出かけるだろう。卒業大学の「ブランド価値」、専門領域、年齢などなど雇用者が注目してくれそうな項目を自己評価して出かけるだろう。
つまりそこではすでに企業の選択基準を先取りしているし、企業はそれを見越して求人している。いわく「やる気があるか、職場での人間関係をうまくやれるか、企業にとって手足まといにならないか」などなどである。そして大学や高校でもこうした企業の選択基準に合わせるよう学生の就職訓練を行う。
結局選ばれたほんの一握りの学生だけが「企業を選ぶ」立場になれる。残りのほとんどの労働者予備軍は希望に添わず条件が悪い会社でも黙って従わねばならなくなる。しかもその選ばれた一握りの学生でさえ、自ら資本の論理のもとで将来は労働者を雇用していかに効率よく働かせ、企業の利益を上げるかを考える立場になるのである。人格化した資本として。
 資本主義社会の労働者は資本家企業に雇ってもらえなければ生きていけないため、こうして圧倒的に弱い立場であるし、教育の過程でさまざまな個性がつぶされながら企業の求める人材、つまり優れた労働力商品としての条件に合わせて、本来の自分の個性を殺していかねば生きていけないのである。
 ところで、最近のニュースでは国内の失業率が過去最低レベルまで下がり、雇用が増大したそうである。しかし、その内実は、非正規雇用労働者が仕事に耐えられず、どんどん辞めていくため、つねに人手不足が起きており、非正規雇用労働者は条件の悪い企業を渡り歩きながら生活せざるを得ないという状況があることを忘れてはならないだろう。つまりいま労働力市場では労働力が不足しているが賃金が上がらないという状況が生じているのである。それが証拠に失業率が減っても賃金水準は少しも上がっていない。

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2017年3月30日 (木)

朝日新聞「論壇時評」小熊英二氏の「思考実験」の落とし穴

 今朝の朝日新聞「論壇時評」に小熊氏の「思考実験:労働を買いたたかない国へ」と題する評論が載っていた。

 最近の日本が経済停滞、長時間労働の蔓延、格差増大、少子化の進行などで「幸福度」が先進国中で最下位になっている現状に、ある仮説を立ててこれらの問題をまとめて解決させる政策を考えてみようというものだ。
 それは、非正規雇用の時間給最低賃金を正社員の給与水準以上にすることだという。これは、従来正規雇用の方が給与水準が高いのが常識であるが、実はその根拠はなく、むしろ非正規の方が、社会保障や雇用安定の恩恵がない分、給与が高くても良いと考えるべきだという。例えば非正規の時給を2,500円にすれば、一日8時間労働で月収44万ほどになり、正規雇用との格差は減り、「安定しているが賃金と自由度が低い働き方」と「不安定だが賃金と自由度が高い働き方」という相違となり、正規雇用にこだわる理由が少なくなる。
 その結果、親の介護や子育てで一時離職しても不利になりにくく、ボランティア活動などもしやすくなり転職もしやすくなる。また人的交流が活発化し、アイデアや意見の多様性も高まるし、起業もしやすくなる。また給料が上がれば結婚もしやすくなり子育てもしやすくなる、というわけだ。そしてこうした賃上げのための財源は不要だという。賃上げで購買力が増え、GDPが上昇し、税収も増えるからだという。ただし、こうした高額な最低賃金が払えない労働生産性の低い企業は淘汰され、大幅な業態変更を迫られる。つまりその程度の痛みは仕方ないということのようだ。
 さて、この仮説は一見良さそうに見えるが大きな落とし穴がある。それは、なぜ日本では非正規雇用の賃金が正規雇用より安くなっているかその理由を考えてみれば分かる。
  それは現在の日本では非正規雇用に代表される低賃金労働がなければ日本企業が国際市場での競争に勝てないという事情があるからだ。一方では正規雇用労働者が「正規」ゆえに長時間労働や残業手当なしなどの過重労働などに駆り立てられ、責任を負わされこれに耐えられずに過労死や自殺が増える。そして他方では正規雇用が負い切れない分の労働は低賃金の非正規雇用労働者が担うことになる。
 労働賃金は労働市場によって決まる労働の価格であって、市場での需要供給関係で決まる。正規雇用は将来経営陣にもなりうる幹部候補でもあるため、一流大学出の優秀な学生を求める狭き門であり、正規雇用労働者になるための受験戦争ですでに労働予備軍の競争が行われ、そこでは受験産業という資本がこれを利用して利益を上げている。そして受験戦争に投じるお金もなく、フツーの人間である若者たちがこうした競争からふるい落とされ多数派になっていくため、非正規雇用労働市場にあふれる。だから非正規雇用は低賃金なのである。
 ちなみに最近移民問題でもめているEUやアメリカでは日本での非正規雇用労働にあたる社会の底辺を支える労働を担うのが移民労働者であり、彼らは母国に比べれば賃金水準の高い国でその国では低賃金である労働にも耐えるのである。日本では移民労働者が少ない(とはいうものの「研修生」の名目で低賃金労働をさせられている外国人労働者がたくさんいるが)ためにその分日本的な非正規雇用労働者が必要なのである。
 だから時給2,500円の「自由な」労働者なんて言うのはあまりにあまい考え方であり、実際ありえない。それが証拠に、安倍政権でも最低時給アップが叫ばれ、賃上げが叫ばれたが国際市場で高い競争力をもつ大企業で賃上げがあった他は実質的な賃金はほとんど上がらず、非正規雇用の時給最低額も数十円しかアップしていない。
  「働き方改革」などお題目だけで、実質的残業時間は少しも減らないだろう。公務員や大企業の恵まれた正規雇用労働者だけが「プライムフライデー」などを楽しんでいるに過ぎない。
 そして安倍首相が、労働賃金が上がり労働者の購買力が増えればGDPが増加し税収も増える(小熊氏もそれと同じことをおっしゃるが) 、という名目で実行した「アベノミクス」も惨憺たる状況で莫大な赤字国債を増やし続けながら事実上破綻している。
  結局は社会保障予算を削減し、高齢者が増えているにも拘わらず公的介護の予算が増えず、老親の介護のために勤めを辞め、非正規雇用で食いつながねばならない人が増え、生活保護を受けなければやっていけなくなった人たちにも生活保護支給額が減らされていく。
 この現実を見ず、非正規雇用の時給大幅アップですべての問題が解決するなどと考える「思考実験」は馬鹿げている。
 「労働を安く買いたたかない国へ」とおっしゃるが、「労働を安く買いたたくことで経済的に成り立っているのが、市場での無際限の競争を前提にした現代の資本主義社会なのである。

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