« 2017年1月8日 - 2017年1月14日 | トップページ | 2017年1月22日 - 2017年1月28日 »

2017年1月15日 - 2017年1月21日

2017年1月18日 (水)

「自由貿易」の矛盾を巡る問題

 イギリスはEU単一市場からの離脱を明確にした。モノやヒトの自由な往来ができた単一市場から離脱することでモノの行き来を犠牲にしても移民の流入阻止を優先した様である。

 アメリカのトランプもメキシコからの移民流入を阻止することを声高に叫んでいたが、この問題はこのブログでもすでに何回か書いたように、国による生活水準の差、つまりは労働賃金の差の問題が根源であろうと思う。
 これは世界的に見れば、資本主義経済体制の不均等発展に必然の結果であって、資本主義化が進んだ国では労働者の生活資料がすべて商品化されており、その回転(すなわち消費の促進)を資本蓄積の必要条件としているのに対して、資本主義化の遅れた国では生活資料の自給自足的部分が残存しているため、労働者の生活資料もすべて商品化されておらず、したがって安い労働賃金でも何とかやっていける状態になっているからであろう。
 しかし、もちろん国による労働賃金の違いはそればかりではなく、グローバル資本の搾取形態が国によって異なるという事情もあるだろう。
 例えば、「先進」資本主義国では、生活資料商品(これには食料・衣料品などと共に家電製品やクルマなども含まれる)の回転率を高めること、つまり「消費拡大」がその国での資本蓄積の要件となっているにも拘わらず、消費を拡大させるためには労働者の賃金を高くしなければならず、これによって今度はその国での「労働コスト」が上昇し、国内の労働力に頼って輸出で稼ぐ資本家としては国際市場で不利になる。したがって生活資料を労働賃金の安い国で生産させてそれを安く輸入すれば国内の生活資料商品の価格を低くすることができ、労働賃金の上昇も抑えることができる。しかしそれによって今度は国内での生活資料商品を生産していた企業の労働者は放逐され、サービス産業や観光産業などの非生産部門の資本に雇用されて生きるしかなくなる。
 一方、資本主義化の遅れた国々では、グローバル資本からの投資で工場が作られ、資本主義化によって農業などで生活できなくなった人々を低賃金労働者として雇用することができるようになる。しかもその工場でつくられる生活資料商品を「先進」国に輸出することで大きな利益を得ることができ、グローバル資本からその分け前を獲得できる。こうして「後発」資本主義国の国内市場も形成され、資本主義化が進む。これを資本家たちやその代表政府は「開発が進む」と言っているのである。(ちなみに安倍首相は我々の労働の成果である生活費から取り上げた税金を用いてこうした国々に多額の「支援」を拠出している)
 この状態では「先進」諸国の資本家は「後発」諸国の労働者の生活水準が低い方が都合が良いのである。しかし、一部の「後発」諸国では徐々に労働者階級が成長し、生活資料がすべて商品化されるようになると、今度はそれまでの賃金ではやっていけなくなってくる。そのため、労働賃金を上げなければならなくなり、したがってそれらの国々でも資本家達が国内市場の活性化を目指してそこから利益を上げようとするようになる。やがて一部の高賃金化した労働者(頭脳労働者や中間管理職など)や、市場の活性化に乗じて利益を上げた投資家や商人などは私財を蓄え「先進」諸国から高価な商品を買ったり海外へ観光旅行に出るようにもなる。こうしてその国での労働者の格差が拡大し、それらを平均して労働賃金の水準が上がっていったとしても、今度はそのことによってその国の国際市場での競争力は劣化していく。
 しかしさらに資本主義化の遅れた国々や紛争や戦争などで生活が疲弊した国の人々は生きるために「先進」諸国で働いて生活することを目指すようになる。そしてそれまで比較的自由に出入りのできたEU諸国やアメリカへの大量の移民の流入が起きる。
 こうした状況でNAFTAやTPPの様な多国間自由貿易協定で輸入関税を撤廃していこうとすれば、当然それらの国々での生活水準つまり労働賃金の水準の違いが大きな問題となってそれが結果的に産業構造の激変や雇用喪失といった問題に発展することは明白だ。
 要するに、資本主義経済体制において、世界中でモノとヒトの行き来の制限をなくそうとすることを、それぞれの国での生活水準の大きな差を維持したまま実行しようとすれば当然それぞれの国で労働者階級が何等の形で大きな犠牲を強いられることになるのだ。だから労働者達は危機感を強めポピュリズムを支持することにもなるのである。
 一方、それぞれの国々が関税障壁や移民制限を設け、自国の資本家の利益を優先しようとすれば、すでにグローバル化した資本主義経済体制はかならず行き詰まってしまうだろう。かつて20世紀の半ばに「ブロック経済体制」という状態が結局第二次世界大戦を引き起こすことになったことが思い起こされる。そうなれば労働者階級はもっと悲惨な目に遭うことになる。
 こういうジレンマにいまの世界資本主義体制は立たされているのであって、自国の資本家達が儲かれば労働者達もそのおこぼれを頂戴できると考えるのはもう止めた方がいいだろう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年1月17日 (火)

労働者の味方?トランプ「資本家」大統領の落とし穴

 不動産資本家トランプがいよいよまもなくアメリカの大統領に就任する。彼は「アメリカ第一」を声高に叫び、アメリカでの雇用を増やすために製造業を国内に取り戻し、CO2削減へのマイナス要因となる石油石炭産業を敢えて復活させ石油・石炭労働者の雇用を護る、などを画策している。そして製造業を護るために国外から輸入される安い製品に高い関税をかけ、安い賃金で働く国外からの移民労働者により国内労働者の雇用が奪われることを防ぐため国境に「壁」を作り、移民流入の制限を強化し、同時に国内労働者にはオバマケアに代わる医療保険を設けるなどと、アメリカの労働者階級の味方であるかのような主張を繰り返している。トランプ大統領がこの主張のどこまで実際に行うのかはまだ不明であるが、ここでトランプの主張で資本主義経済体制に特有な法則からみて明らかに矛盾している問題を取り上げてみよう。

 資本主義社会は「個人の自由と平等」が保障され、「誰でも自由な商取引により私有財産を増やすことができる社会」がモットー(だから資本家も労働者も平等の立場で利益を分け合うといういつわりの思想がまかり通るのであるが) であるため、その経済体制を統括する政治形態においても個人の自由意志による投票で代表者が選ばれ、その人たちの会議での議論の結果に基づいてそれを「国家」という立場で実践してゆく人物(例えば大統領や首相)が政治を運営していくことがたてまえになる。

 そのため、資本家側はできるだけ資本家の立場を代表してくれる人物をトップに選びたいが、多数決である以上は多数派の労働者階級にも協力してもらわなければならなくなる。
大統領選でのトランプの主張はまさにこのことを象徴している。
  そのため選挙の結果、もし労働者の立場が強くなれば当然資本家達もある程度労働者階級に譲歩しなければならなくなる。表向き資本家も労働者も「平等」であるとする資本主義社会ではこのことは避けられない。
 
 一方で資本家は市場での競争に勝つために「労働生産性」を高め、同じ労働時間内に少ない労働力で多くの生産物を生みだすことによるコストダウンを画策する。そのため大規模な機械設備などを導入し、いわゆる「生産の合理化」を行う。
 「生産の合理化」によって減らされるのは先ず、それまで手作業で働いていた生産現場の労働者であり、その人たちは人員削減か配置転換によってまだ「合理化」されていない部門に回され賃金や労働時間は不利な条件に置かれるか別の職業に転じざるを得なくなる。ところがそれとは反対に機械設備の設計やそれを動かすコンピュータソフトの開発などを行う頭脳労働者は需要が増える。そして資本家が得た利益のかなりの部分をそうした頭脳労働者の賃金のために振り向けなければならなくなる。したがって賃金の高い頭脳労働者と低賃金の単純作業労働者の格差が大きくなる。しかしそれによって市場で優位に立った資本家は従来をはるかに上回る利益を獲得できるのである。
 他方で資本は国境を超えて世界中を動き回り、生産部門では当然のことながら生活費が安く、したがって労働賃金が低くてもやっていける国々で労働力を確保し、生産拠点もそこに移すことになる。
 そしてアメリカで設計されたクルマはメキシコの工場でメキシコ人労働者によって生産され世界中に輸出されることになる。メキシコなどの国々の低賃金労働のおかげでアメリカのクルマは国際市場で競争に互して行くことができ、グローバル資本家となった自動車会社の経営陣に莫大な利益をもたらしている。
 資本主義社会では、こうして合理化しにくい労働部門(例えば生産部門では高度な頭脳労働そして非生産部門である証券・金融関係、販売関係、第3次産業、サービス労働など)や合理化するよりも安い労働賃金で働く労働者を獲得する方が有利であるような産業部門(物流・運輸関係、インフラのメンテ、防犯警備関係などなど)の労働者が増え、全体としては非生産部門の労働者の比率が増えていく。生活必需品は国外の安い労働生産物を輸入することで賄うようになっていくため、国内でのその部門の労働は減少していく。そしてそのことが国内での最低賃金の水準を低く抑えることを可能にする。
  こうして国内の労働構成も変わって行き労働者の格差はどんどん拡大していく。したがって当然「下層化」された労働者たちの不満は鬱積していく。アメリカや西ヨーロッパなどの国々はこうした状態であると考えられる。
 これに対してその労働者達の不満の爆発に乗じて登場したトランプ大統領のアメリカでもEU離脱を決めたイギリスでも国外で作られた製品の輸入に高い関税をかけ、国境の壁を高くして国内の労働者の不満を解消すると宣言するが、おそらくその結果は惨めなことになりそうだ。それらの国々では生活必需品の価格が高騰し低賃金労働者の生活がより苦しくなるだろうし、生産企業はコスト高で国際市場で苦戦するだろうし、関税障壁に対する対抗措置によって、それ以外の輸出企業も苦しい立場に置かれるようになるだろう。そうなれば、それらの企業の資本家たちはおそらく再び労働者に犠牲を強いるだろう。
  そのため、これらの国々間での経済的対立が市場での混乱と政治的危機を生み、世界的な不況や軍事的緊張を生みだす可能性も高い。そして労働者階級は資本家達の競争や対立の中でさらに大きな犠牲を強いられることになるだろう。
 そうなったとき、トランプや西ヨーロッパのポピュリスト指導者たちはいったいどう決断するのか?この危機は2017年のうちに始まるかも知れない。日本の労働者階級にも他山の石ではなくなることは確実だろう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2017年1月8日 - 2017年1月14日 | トップページ | 2017年1月22日 - 2017年1月28日 »