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2017年1月30日 (月)

トランプを大統領に選んだアメリカの内実を考える(修正版)

 前々回のブログで「1970年代から始まったアメリカ社会の変質を考える」というテーマで今日のアメリカの状況のルーツが1970年代にあるのでは、と書いたが、その中で、以下の3つの問題提起をした。今回はきわめておおざっぱではあるが、それについて考えてみよう。

(1)1960年代まで莫大な軍事費を計上してもやって行けたアメリカの国家予算がなぜこの頃からやっていけなくなって行ったのか?
(2)なぜ当時「サイレント・マジョリティー」だったアメリカのブルーカラー労働者たちが「社会主義」を悪魔の様な敵と感じ、「星条旗」を神聖なものと見たのか?そしてその後惨めな状況に突き落とされながらいまなお「偉大なアメリカ」の再現を信じるのか?
(3)なぜ反戦運動を盛り上げ、ベトナム戦争を終結に導いたアメリカの若者達の多くが、その後、ヒッピーや麻薬のとりこになってドロップアウトしてしまい、その一方で彼らの一部が当時勃興しつつあったコンピュータ関連などの新興資本家になって行くことで新たな「エスタブリッシュメント」になって行き「中間層」の格差が拡がって行ったのか?
 まず、(1)の問題は、こう考えられないか?
1960年代までのアメリカは「東西冷戦」という緊迫した状況を背景に、<「社会主義陣営」から「自由主義陣営」を護る>という錦の御旗があり、そのために莫大な国家予算が組まれ、それをアメリカの大資本家たちが協力していたと言えるだろう。経済的にはケインズ型資本主義経済で公共事業を増やし、雇用を増大させ、それに大資本が投資して大きな利益を上げる。そして労働者には高い賃金を払い、その賃金が彼らの生活資料の購入に当てられるようにする。この生活資料の生産は家電製品やクルマなど、公共投資によるインフラ整備と平行して行われ、これらの製造部門の資本家や流通部門の資本家を潤わせていった。そしてこの「好循環」を利用して高騰する労働賃金と資本家の利潤のバランスをとるためにインフレ政策を進めていった。
 一方で巨大な軍隊を支える軍需産業は大資本の過剰資本を処置する場としても利用され、それが同時にハイテク技術の進展への莫大な投資を可能にした。
 しかし、1960年代後半からは敗戦国の日本やドイツが資本のゼロ・リセットから急速に立ち上がり、国際市場での手強い競争相手になって行った。そのためアメリカ労働者の賃金は頭打ちになって行き、税収も減少し始め、またベトナム戦争などへの軍事出費が国家予算の比率を高めていたため、国内的にも「好循環」がうまく進まなくなった。
 やがてプラザ合意による国際変動為替制が導入され、今度は為替レートの差により世界経済が左右されるようになって行き、やがて資本家達は製造業以外の産業に投資するほうが「儲かる」と考えるようになっていったのであろう。そして、その後、東西冷戦の終結とともに、核戦争の抑止力という錦の御旗が失われたことによってそれまで膨大な国家予算を振り向けていた国防費が文字通り過剰となり、資本家達の軍需産業への投資も縮小していったと考えられる。
 次に(2)の問題であるが、アメリカの労働者階級は1930年代の世界恐慌の時代に、労働運動が高まり、社会革命への芽が育って行ったが、第二次世界大戦と「国際共産主義運動」指導部がその無能と腐敗によって本来のインターナショナリズムを失い、戦後に当時の政府による「レッドパージ」などがあってアメリカのインテリ層や官僚の「左翼」的部分が一掃されてしまったことによる影響は大きかったと思われる。それ以後はもっぱら社会主義を敵とした「愛国心」が要請され、賃金の高騰などによる「豊かな生活」が労働者階級を右傾化させていったと考えられる。しかし、その後(1)で述べたような事情で製造業は凋落し、労働賃金の安い国へと生産拠点が移っていったため、労働者達は厳しい状況に追い込まれていったが、その「愛国心」はますます大きくなって行ったと考えられる。
 そして(3)の問題であるが、1970年代にアメリカの製造業があやしくなって行ったことで、当時すでに軍需産業の成果として育ちつつあったコンピュータ技術を中心とした「IT」技術が資本家たちの目にとまり、高成長産業と見込まれ莫大な投資が行われるようになった。それと同時にこうした技術のノウハウを「知財」として保護し、この権利を売り物にして莫大な利益を得ることが始まった。IT産業がアメリカ資本主義を支えるようになるのは1990年代と考えられるが、これに伴って、高度な知能と知識を売り物にする産業が主流となっていき、若い学生などから「起業家」が登場し、AppleやMicrosoftそしてITと物流を結合させたAmazonなど多くの 新興資本が成長する。
  一方で自動車、鉄鋼など大資本製造業が凋落し、他方で小さな新興知識産業が勃興するという状況がやがて成長しそうな企業への投資を促し、「オカネを出してくれる株主」を最重要視する会社を増加させ、グローバルマネーの流動化を促進していった。この流れが「アメリカンドリーム」や「たとえ労働者であれ誰でも投資できる者が 株主として企業を動かせる」という考えが浸透し、「自由・平等なアメリカ」という思想を裏付けする形になっていった。これが民主党などの主張を生む「アメリカン・リベラリズム」の基礎をつくり、いまのアメリカでの「エスタブリッシュメント」とも結びついている。
 こうして、かつてベトナム反戦運動で戦争を終結に導いた若者達の中で、一方では「有能な」者たちがIT産業の担い手となり、他方でそれに乗れなかった者達は不安定な産業に職を求めるかドロップアウトしていくことになったのだろう。これがいま「中間層の格差拡大」となって現れている。
 こうしていまアメリカは国際市場で競争できる新興産業においては高度な知識や高い知能があれば移民も歓迎するが、製造業など国際競争力がなくなった産業に従事していた労働者たちは移民流入反対を唱えることで自分たちの立場を護ろうとするようになったのだと思う。
 リーマンショック以降こうした格差の傾向は急速に拡大し、労働者階級は分断されてしまい、僅差で「アメリカ第一」を叫ぶトランプを大統領に押し上げてしまった。 そしていまトランプの独裁的政策はそれをますます深刻なものにしつつあるようだ。
 アメリカ労働者階級の分断とその内部矛盾の激化は世界情勢をおおきく揺るがすことになるかもしれない。

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