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2018年4月 5日 (木)

米中「貿易戦争」の背景を考える

 北朝鮮問題では一触即発という危ない状態に至ったため、共同で北に核開発を止めるよう経済制裁で圧力をかけることで一致したが、その後、北と韓国が平昌オリンピックをきっかけに急速に融和ムードに入り、中国もこれに同調すると見るや、自分の存在の影が薄くなってきたトランプが「自国の貿易損失を改善するために」と中国からの鉄鋼などに高い関税をかけると言い出した。その後も知的所有権問題に関わるハイテク製品に高い関税をかけると言っている。

 するとこれに対抗して中国もアメリカからの輸入に報復として農作物などに高額の関税をかけると言い出した。あたかも米中貿易戦争という眺めになってきた。
 しかし考えてみれば、今世紀はじめに中国からの低賃金労働による格安製品が世界市場になだれ込み、いわゆる「価格破壊」をもたらし、「先進諸国」の生活消費財市場はある種の「革命」が起きた。そしてその後、中国はあらゆる分野で世界市場を席巻し、あっという間に日本を抜いて世界第2位の「経済大国」になったのであって、中国の急速な「経済成長」は一方でいわゆる国際的な「生活水準」の違いを国内的には温存しつつ、対外的には「一つの市場」となった世界市場でその生活水準の差を利用して稼いできたのである。
 その結果、「先進諸国」の労働者階級は賃金が変わらなくても格安生活消費財の登場で生活費は下がり実質賃金はその分上るかに思えたが、逆に「最低生活」を余儀なくされる非正規労働者など下層労働者は必要最小限の生活資料の価格が下がったためかえって賃金が低下した。
  そしていわゆる中間層は、生活消費財以外の生活必要経費(例えば高等教育費)が上昇し、結局実質生活必要経費がどんどん上昇して行った。そのため例えわずかに賃金が上昇しても相変わらず生活には余裕がない。このため社会の中間層や上層部に行けるための教育資金などを支出できる一部の高給労働者はどんどん上層への階段を登って行け、それができなくなった中間層は「下層」への没落を余儀なくされた。結果として「先進諸国」の中間層における「格差拡大」を加速していったと考えられる。これが「トランプ現象」やヨーロッパでの移民排斥や民族主義の台頭の背景にあると思われる。
 一方いわゆる「低賃金労働」を売り物にする国(いまでは「経済大国」となった中国よりもミャンマー、マレーシア、インドネシアそしてナイジェリアなどのアフリカ諸国が中心)ではやがて国内での労働者の労働条件改善や賃上げ要求への圧力が高くなり、この不満を抑え「生活水準の差」を維持するために一方で情報管制や反政府運動への取締を厳しくしながら国内では「努力次第でリッチになれる」という思想キャンペーンを行うことでこうした動きに歯止めをかけようとしているようだ。
 つまりいわゆる「経済成長」はその背後に必ずこうした労働者階級の格差拡大や搾取拡大が前提されているのである。
 トランプは国際市場での価格競争に負けて敗退しつつある鉄鋼産業の労働者の雇用を守るという姿勢で鉄鋼製品の関税を高め、結局鉄鋼部品で作られた生活消費財の国内価格を高め、自国の労働者階級の生活費を高めることにつながるような行動を取っている。
  中国も過剰生産となって世界市場で価値より低い価格でも売らねばならなくなった鉄鋼製品などの生産に携わる労働者を守るというスタンスを取りながら、その報復関税で中国労働者階級の生活費が高騰しかねない行動をとっている。
 要は、アメリカ的生活に見られるような高額生活消費財をふんだんに用いた生活文化が世界共通の現象になりつつあるのに、その市場では国際的な「生活水準の差」による労働賃金の格差を利用した価格競争が展開され、それがますます国内での労働者の格差を増大しているということであり、その矛盾が「国家統治者」間での「貿易戦争」あるいは「経済戦争」という形をとって現れているのである。

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