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2018年5月 7日 (月)

中国深圳の「三和人材市場」という労働力市場

 昨夜NHK-BSTVで中国深圳市にある「三和人材市場」のドキュメンタリーが放映されていた。深圳は人口1200万で「世界の工場」といわれる中国を代表するハイテク企業などが建ち並んでいる大都会であるが、そこに地方の農村部から仕事探しに集まってくる若者が多い。彼らがまず行く先がこの「三和人材市場」らしい。ここでは民間の人材斡旋業者がたくさん集まっており、さまざまな企業からの求人を斡旋している。

 しかし、地方から来る若者達は学歴もなく一時仕事で稼ぐしかない。長期の雇用もあるがどれも労働条件は厳しく、12時間近い単純労働であったり、いわゆる「3K(危険、きつい、きたない)」であったりするので、大抵はすぐに止めてしまう。そして短期の仕事を求めてその日暮らしをするようになる。この人材市場の近くに住み着いている若者達がおり、彼らは路上やネットカフェなどを泊まり歩き、ヴァーチャルなゲームやギャンブルに耽っており、カネがなくなると短期の仕事を求めて市場に出向く。こういう人たちを「三和ゴッド」というのだそうだ。
 3人の「三和ゴッド」への取材では、いずれも地方で農村が疲弊して食べていけないし、高等教育を受けるカネもなく何の技術も身についていないので都会に仕事の機会を求めてきたが結局こんな生活に落ちてしまった。もうこの状態から抜け出すことはできないだろう、と自嘲的に語っていた。
  彼らの一人はオカネが欲しくて自分の身分証明書をある男に売ってしまった。ところがその男は自分の身分証明を使っていくつもの会社を立ち上げ、1億2千万もの収入を得るまでのお金持ちになってしまった。彼は「オレは日当1500元の賃金で日雇い仕事をやって食いつないでおり、苦しいのでとても安くその男にオレの身分証明書を売ってしまった。いまオレの名前を騙ってそんなぼろ儲けしているなんて我慢がならない。200万位払ってもいいだろうといってやりたい!」と息巻いていた。
 こうした若者の中にはもう都会に見切りを付けて故郷の農村に帰って貧困の中でなんとか生き延びようとする者もいた。
 また、別の若者は地方の農業大学まで出たが、やはり仕事がなく都会に出てきたが、やはりまともな仕事に就くことができず路上生活者となっている。しかし何とかこの状態を抜け出したいと語っていた。
 またある中年の男は若いとき地方の農村から出稼ぎに来て、苦労して働いた結果、いまでは深圳で飲食店を持つところまでやり上げ、子どもも生まれたが、その子どもを学校に入れることができない。なぜなら、中国では農村戸籍の人は都市で戸籍を持つことができず、戸籍がなければ学校にも入れないからだ。
 中国では「改革開放政策」以来、高度経済成長の中で成功したいわゆる「新富裕層」といわれる人々が増えており、お金持ちになった彼らは、例えば日本などに来て高級家電製品などを「爆買い」していく。しかしその一方ではこうした貧困層も増えており、その「格差」はますます広がりつつある。
 中国は「社会主義」の看板を掲げながら、現実には労働者から労働を搾取して成長する資本家的企業を国家が育てているのである。この実状を見ると、これはまったく「スーパー資本主義社会」とでもいうべき社会である。「社会主義」と名乗るのは、共産党が独裁政権を握っているからであり、それによっていわばグローバル市場の中で「普通の資本主義国」よりもはるかに効率よくトップダウン体制で資本の集中化を進めているように見える。そして労働者階級や農民はその最大の犠牲者であるといえるだろう。
 ところが先日TVのニュースで、今年はマルクス生誕200年なので、マルクスの生まれ故郷であるドイツのトリーアという街に中国がドイツとの友好を示すためにマルクスの巨大な像を寄贈したのだそうだ。
 マルクスはあの世で多分怒り心頭に達しているに違いない。「誰がこんな超資本主義の国を「社会主義」だ等と呼ぶのだ!私の目指す共産主義社会とはまるで180度も違う社会を「社会主義」だなどという連中が私の像を生まれ故郷に寄贈してグローバル資本の仲間入りをさせてもらうなんて魂胆は絶対に許せん!!」 きっとこう言うに違いない。
 「アメリカ・ファースト」を叫び中国を「経済的脅威」と位置づけるトランプ大統領を熱狂的に支持するアメリカ「ラストベルト」の労働者たちはこうした中国の労働者の現実を知るべきだろう。本当に闘うべき相手は彼らと「共通の敵」なのではないのか?

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