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2018年9月10日 (月)

ヨーロッパにおける「反リベラル派」の複雑な様相

 日本ではそれほど深刻な問題になっていないが、ヨーロッパでは中東の紛争地から逃れてくる大量の移民に対して拒否反応が強くなっている。人道的見地から移民を受け入れることを主張するのが「リベラル」で、これに真っ向から反対して移民排斥を主張するのが「極右」であるという単純な図式を考えやすい。

 「リベラル」派は「人道的見地」という普遍的な原則をそのまま現実に適用しようとしているが、実際に長年築かれてきたその土地の生活文化や人間的結びつきのあり方に、それと全く違う背景を持った人たちが大量にやってきて生活を始めれば、誰しもが違和感や危機感を持つだろう。だから「リベラル」派の主張に違和感を持つ人々が移民排斥を主張する人々に共感を持つのは当然ともいえる。

 しかし、移民排斥グループの中身は「極右」として片付けるにはあまりに複雑である。確かにこのグループには「ネオナチ」の様な本物の「極右」もいるが、ヨーロッパの人々はあの第2次大戦に至ったファシズムのもたらした結果を身体で知っており、ドイツ人などはその反省から来る「痛み」をずっと引きずってきた。だからそう簡単に本物の「極右」が政治的主導権を握るとは思えない。
 一方で移民排斥グループの中には、グローバル資本による経済と生活文化の世界支配に対する大きな危機感を持ち、それに対するもう一つの選択肢としてセルジュ・ラトゥーシュに代表されるような「ローカリズム」を標榜するグループがある。このグループの人たちはグローバル資本の支配に危機感を感じており、資本主義社会の経済成長至上主義に対抗して「成長なき社会発展」を目指してローカルな自治・自尊の社会を掲げ、地産地消、ローカル通貨、商品販売ではなく贈与による交換などを主張している。またステファーノ・バルトリーにらが主張する「コモンズ」と呼ばれる社会共有財の拡大にもとづく人間的結びつきを重視するグループによる社会提案なども実際に試みられている。
 こうしたローカリズムや社会共有財の重視などはかつてのファシズム的民族・国家主義とは異なる新たな潮流であり、19世紀のトマス・モアやラスキン、モリスなどのユートピア思想にも似た内容を持ったものとも考えられる。そしてこうした人たちが移民排斥の主張に共感を持っているのである。
 こうした潮流をどうとらえるかという問題はあらたな課題であるが、一方で戦後のヨーロッパにおける政治的「左派」の歴史においては、ヨーロッパの社会主義および共産主義運動の戦後の流れの中で、ソ連圏に代表される「社会主義国家」の一党独裁的国家主導型経済と生活に拒絶感が強く、ケインズ型資本主義とほとんど区別の付かない「社会民主主義」や「ユーロ・コミュニズム」という流れを生み出した。
 この流れは、他方でソ連型「社会主義国家」をマルクスの思想そのもととして扱い、社会主義イコール「全体主義」「自由のない国」という烙印を押してきた右派政党の流れに対抗し、平等な社会、自由な個人、といった普遍性を旨とする「リベラル」派の流れの一部を作ってきたと考えられる。
 しかしこの「リベラル」派は資本主義社会の本質的矛盾を認識していなかった。そのため、「社会主義」圏が崩壊し、「社会主義国」を自称する中国が資本主義的市場経済を導入して、一躍グローバル資本の仲間入りをする事態に対してなすすべもなく、資本主義経済を普遍的経済システムとして受け入れた上で、市民主義的「リベラル」を主張する形になっていったと考えられる。
 この中途半端な「リベラル」派の考え方がグローバル資本主義のもたらす過酷な現実に対応しきれなくなったのだと思う。そしてそれに対する人々の反発がさまざまな主張を内部に持ちながら「移民排斥」という直反発的反応として現れているのではないかと思う。
 これを「リベラル」と「極右」の対立として単純にとらえること自体非常に危険である。むしろ「リベラル」の矛盾を「左」と「右」から突く反応といえ、これを「極右」と烙印を押す前に、いまの「社会主義国家」の矛盾やリベラル派の矛盾をキチンと把握するためにもう一度資本主義経済システムの本質的矛盾について真摯にとらえなおしていく必要があるのではないだろうか?そのためには「資本論」をキチンと読んで理解することが必要なのではないか?

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