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2018年10月13日 (土)

朝日新聞"GLOBE"特集での問題:人工知能が人間の歴史を終わらせる?

(前回からの続き)
  そして最後に、「人工知能は人類を滅ぼすのか」という大問題である。AIがやがてAGIにより人間の能力を超えた存在となり、人類は自分の生み出したAIに逆に支配されるのではないかという危機感。そしてその状態でむしろ経済の成長はAIに任せて人類は「仮想現実の中だけで「幸せに生活」して行けばよいのであって、人類の歴史はそこで終わる、といういわば人類の主導権放棄を肯定する究極のニヒリズムまでがまじめに語られるようになったのである。
 このような思想が現れる背景には、そもそも人間自身が生み出した「道具」が何の目的で生み出されたのか、そしてそれを誰が用いようとしているのかという重大な問題を不問にする風潮の蔓延がある。
  人類は道具の発明によって飛躍的な進歩を遂げた。道具は眼前の問題を解決するための手段として生み出されたのであって、必ずその目的がある。しかし、いまの人工知能は資本主義生産様式の登場の中で初めて登場した「道具」であって、それは他の産業革命の産物と同様に本質的に資本の生産力を高めるための手段なのである。
  つまりAIという「道具」の支配権を握る使用者は資本家階級なのであって、その技術がもたらすさまざまな社会的貢献はもちろんその成果ではあるが、それは主目的ではないのである。
 こうした背景では、AIは最初からわれわれとは無縁の世界にいる誰か頭のいい人(資本主義的分業種の一つである情報技術者および研究者)が考え出した技術であって、われわれは何の目的でそれに巨額の資本を投入してまで開発されねばならないのかを知らされてはいない。ただその社会的貢献度や「副作用」ばかりが話題としてふりまかれる。つまりそれは最初からわれわれの意図とコントロールを超えた存在なのである。
 しかしいまいよいよそのAIの主目的が露わになってきた。つまり頭脳労働者たちは資本家のツールである人工知能に取って代わられつつあるという現実だ。
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 しかしここでもっとも肝心なことは、人工知能という道具が人間の労働者を完全に駆逐してしまうことはあり得ないということだ。それは資本主義社会で「価値」を生み出す実体は「生きた労働」しかあり得ないからだ。もし人間の労働者が完全に駆逐されてしまえば、資本家は価値の源泉を失うことになり、資本主義社会そのものが成り立たなくなるからだ。
 だから川上氏の描くようなAIに経済を任せて、あとはベーシック・インカムによって労働者が働かなくともすむ「仮想現実の夢」は現実化され得ない。
 そうではなくて、必要なことは、資本主義社会の根底にある「賃労働と資本」の関係、つまり社会的に必要な資料を生み出すに要する人間の労働が「賃労働」として、その成果を私的な富として獲得することを目的とした資本によって支配されている、という社会の基本構造が変革されない限り、いつまでも、社会を支えるために労働する人々が社会の主役にはなれないということだ
  だからいま労働者たちは自分たちの意図のもとで生み出されたものではないAIによって自分たちの存在が脅かされていることを知り、ただ恐れだけを感じていてはいけないのだと思う。むしろAIを本当に全人類社会に貢献できるような「道具」に転換できるのは、世界中でこうした状況に追い詰められている労働者たちの連帯と抵抗以外にあり得ないことを知るべきではないだろうか。
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(追記)
 最後に「不老不死は実現するか」という問題と「人間の歴史が終わる」という川上氏の主張に関係する問題で、「死生観」について書いておこう。
 もし人間が「不老不死」になったならそれはもう最初から死んでいるのと同じである。一方に生物学的な死というものがあるからこそ人は生を謳歌できるのであって、これは大自然という物質世界の一部に過ぎない人間という生物種として当然のことなのである。
  マルクスが言ったように「人は1日24時間づつ死んでいく」のであって、生きるとは死の反面なのである。これと同様に、苦労や哀しみがあるからこそ、人はその反面としての「歓び」を持てるのであって、川上氏のいうような「仮想現実に生きる幸福」なんてものはあり得ない。毎日仕事もせずに「仮想の世界」で遊んで暮らす一生。そこにはもう何の歓びも哀しみもない。まさに地獄である。
私はそう思う。
(以上)
 

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コメント

野口さん、今晩は。
いつも楽しみにしています。
AIがついに弁証法を獲得する瞬間が近づいているのではないかと、これもまた楽しみです。

資本は、生産的労働と非生産的労働を峻別し、
まさに、資本にとって役立つものを求め、資本の拡大にかなうものを求め、それに役立たない、資本の単なる縮小にしか行き着かないものを拒否し、それでしかない労働に資本を投入することはできないのですが、
だから、マルクス経済学や、生物に関する発生学の進展に寄与することはできないので、それらの学問を廃棄するのですが、
非生産的労働を、資本には全く寄与しない労働もまた、
人間の自然と言えるかと思います。我等が資本論を読む会のわずかな労働もまた、少しは進むと言うものです。
小さな弁証法が作用すると言うことです。資本のロポットにはあり得ないものですが、それでも弁証法に近づくロボットが待っていると言うことでしょう。

将棋の世界にはAIソフトがあり、それなりに強くなってはいるのですが、貨幣のやりとりを含むルールを導入する必要は全くないのですが、実際には、昔から、賭将棋もあるし、大きな額を懸けて大名将棋ならぬ、資本家将棋もありうるわけです。そこまでいけば、AI将棋もまた資本の活躍もあろうかと思いますが、我々の将棋会には縁はありませんので、商売になるかは、ただ資本の条件設定でしょう。パーミューダ将棋とか、ロンダリング将棋、 暗殺あり将棋、が待っているのでしょうか。見る必要もないかと。

お邪魔しました。

投稿: mizz | 2018年10月14日 (日) 12時04分

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