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2018年10月 8日 (月)

朝日新聞"GLOBE"特集「テクノロジーの世紀」をめぐって(その2)

(前回からの続き)

  「アルゴリズムの加害を止めよ」というインタビュー記事ではキャシー・オニールというアメリカのデータサイエンティストが、「ビッグデータとAIがあらゆる問題を解決してくれるという熱狂があり、ここでも数学が社会を混乱させているが、この状況は大量(Mass)破壊兵器ならぬ数学(Math)破壊兵器と名付けられる。 機械であるAIが血の通わない数字であるデータを淡々と処理するだけだから、その結果は公平・公正であると思いがちだ。しかしそこに大きな誤解がある。数学の力で働くアプリケーションがデータ経済を動かすといっても、そのアプリは人間の選択の上に築かれている。作り手の先入観、誤解、バイアスはソフトウエアのコードに入り込む。偏見に基づいて集められたデータがある特定のグループを不利な状況に陥らせ、その結果がデータに反映されてモデルの偏りを強化させる。結果として、例えば恵まれた人はより恵まれるようになり、不利な人はより不利な状態になる。  ビッグデータを使ったアルゴリズムは結果を予測しているのではなく、そうなるよう仕組んでいるのだ。政府がデータを使って人々の行動を意図的、かつおおっぴらに修正し、あからさまに権力の維持を図ろうとしているようにも見える。シリコンバレーのテクノ長者がシンギュラリティを唱えるのはビッグデータとAIによる格差の拡大・固定の問題から目をそらせようとするためのようだ。 これからは業者に対してどのデータを使っているかを明らかにさせアルゴリズムを監査しなければいけない」と主張する。

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 次に、「不老不死は実現するか」というテーマの記事。欧米では老いや死は科学技術の発展で解決できるという主張が科学者の間でもあり、アンチエイジング研究が盛んになっている。英国の生物学者デ・グレイは「もし60歳の人に30年の健康余命を与える技術が確立できれば、次の90歳のときにさらに30年の健康余命を与える技術が開発される」とし、今後25年以内に人類はこうした事実上の不老不死に到達できると主張する。アメリカではこうした研究が「有望な投資先」として多くの資金が投入されている。
 次は最後の「人工知能は人類を滅ぼすのか」というテーマの記事。近年、グーグルの子会社であるディープマインド社などが人間の知性を超える汎用人工知能(AGI)の開発に力を注ぎそれへの投資が急速に増えている。例えば人工知能ロボットにある簡単な目的を与え、複雑な動きをする対象に対応するために必要な知識を試行錯誤を通じて学習させることで、この目的を達成するためにどのように行動すれば良いかを学習させる方法が盛んに研究されている。こうした研究の成果が囲碁の世界ですでに試みられ、天才棋士がAI棋士に敗れている。
 こうしたAIの学習法の限界としては人間と比べてAIの学習量の圧倒的な差が問題となっているが、それは人間の「学習の仕方を学習する」というメタラーニングによって解決できるだろうという研究者もいる。さらにこうした「ディープラーニング」よりもはるかに複雑な学習構造をもっていると考えられる人間の脳で新しい知識を学習したり高度な機能を担う「新皮質」の働きをシミュレートする「ブルー・ブレーン」プロジェクトという研究も行われている。そこではAGIは2050年以降には可能になるだろうと考えられている。
 こうしたAIのシンギュラリティ実現を主張する研究者のほとんどは、「技術の指数関数的発展」を前提としている。しかし子どもが育つ際の人間の脳の発達過程では最初の言語獲得などでの急速な発展のあと、成長すれば発展速度は弱まる。技術発展にも同様なことがいえるだろうと主張する研究者もいる。
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 そしてこのテーマの最後に「人間の歴史が終わる」と題して、カドカワ社長の川上量生氏がインタビューで次の様にいう。「僕が予想するのは、最終的には一人一人が自分がもっと幸せになるようカスタマイズされた仮想現実の世界に住むようになることです。現実社会では大抵の場合、努力は報われないし、自分のことも認めてもらえないが、仮想現実でこの両方が充たされるとしたら、なんで現実の方を重視する必要があるのか。ただし実体経済だけは個々人に都合の良い現実は見せられない。仮想現実に没入する人々はも、食べられなければ我に返らざるを得ない。だけど今後AIが普及すれば社会全体の生産性はどんどん上がる。全員に一律のお金を支給するベーシック・インカムで、働く必要はなくなる。
  誰もが仮想現実の中で、今よりずっと快適に、幸せに生きるようになり、現実社会はAIの方でどんどん進めていく。社会の主役はAIとなり、人間の歴史は終わる」
 私はこの川上氏の主張は皮肉なジョークではないかと一瞬戸惑ったが、どうやら彼は本気でこう主張しているのである。
 次回ではこうしたテーマに内在する本質的問題を抽出し、結論としてそれについて論じることにしようと思う。
(続く)

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