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2018年10月 4日 (木)

S. バルトリー二氏と小谷氏のトークセッションの概要(その3)

 次に、このトークセッションの最後に行われたフロアからの質問で私がバルトリーニに投げかけた疑問とそれに対する彼の回答について書いておこうと思う。

 私はバルトリーニにこう質問した。「私はこの会場ではもっとも高齢と思われ、終戦のとき5歳で、戦後の食糧難時代を知っているし、その後の高度成長期に青年期を過ごした。そしてその高度成長が矛盾を生じ始めた60年代末から始まった学生運動に私も参加した。あなたはこの本の中で社会主義も失敗したしケインス主義も失敗しその後新自由主義が台頭したとして、社会主義の過ちはもう過去の彼方に葬られているように書いているが、当時の学生運動ではそれまでのソ連・中国型社会主義がマルクスの考えていたものとはまるで違った方法に行っているとしていわゆる新左翼運動を起こしていった。

  あなたの本では現代資本主義社会の矛盾をリアルにとらえており、これは私もうなずける。しかしそれに対する「処方箋」には納得できない。なぜなら、それはマルクスがすでに明らかにしていた資本主義社会の基本的矛盾である賃労働と資本の関係からくる本質的矛盾にあなたの「処方箋」はまったく近づいていないからだ。これについてあなたはどう考えているのか?」(この質問の後半で司会者が私のところに駆け寄ってきて「時間が限られてますので手短に」とせかした。)

 バルトリーニ氏の応えは次の様なものだった。「私は資本主義を全否定する気はない。なぜなら、資本主義には良いところもあるからだ。いまもし資本主義を全否定して、社会主義にすべきだといってもそれが失敗すれば(すでに失敗しているが)また資本主義に戻らざるをえないではないか。私の主張は現代社会の資本主義的欠陥はある部分にすぎないというもので、この部分的欠陥を克服して行くことによってより良い社会を築いて行くと考える方が現実的である。」

 私はこれに対して、「I dont agree with you !」とフロアから叫んだが、反論をいう時間は与えられなかった。このトークセッション全体に「古いサヨクのおじいさんが何か言ってるね」というしらけた雰囲気だったのでこれまでとした。

 帰りがけに一人のやや高齢の男が私を呼び止め、「私もあの疑問には賛成ですよ」と言ってくれた。しかしその人と話をするチャンスはなかったし、同行者と帰りかけていたバルトリーニ氏に私の名刺を渡して「Please send me your E-mail, if you have something to say more for me」と告げて分かれ、会場を出た。

 帰りの電車の中でこう思った。バルトリーニ氏も小谷氏もやはりあの「東西冷戦終了」という時代の歴史的産物なのだなと。20世紀に「社会主義」は自己崩壊した、だからもうそこに戻ることは意味がない。その後世界を支配した資本主義社会の「良いとこ取り」をして悪い部分は修正していけば良いのだ、ということのようだ。これでは頭の先から爪の先まで資本主義のウイルスに感染している現代社会の「病の根治」は到底無理だし、それに気づいていないこの「論客」たちがいまの若い労働者たちに向かって、あたかも「反体制的」とも見えるポーズを取りながら実は体制協力的立場の維持に加担させるようなイデオロギーを振りまいていることを思うとまことに胸の痛くなる思いだ。

 資本主義社会を根底から変えて行くには、まずその先に達成すべき大きな目標を見据えて、それに向かって目の前の現実的課題に取り組んでいくことが必要だろう。そしてその過程で、あらたな社会の基礎となるような経済的・そして社会組織的、教育的土壌を生み出していくことはもちろん必要であるが、それがあるべき方向に向かっているかどうかを絶えずチェックして行かねばならないだろう。「対症療法」がそれだけで終わらず、全体として「病の完治」に向かっているかどうかを見極めることこそ重要なのではないか?

(以上)

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