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2018年11月25日 (日)

アメリカの「新南北戦争」をめぐって

 今朝(11月25日)の朝日新聞、第4面に「米の経済モデル「南北戦争」」というタイトルの記事が掲載された。アメリカでは民主党政権のもとで進められてきた企業での労働組合加入を強制する法律がある州とそれを廃止して「労組に入らない自由」(「労働権法」という紛らわしい名前がついている法律)を決めた州での労働者の運動が対立しているという実態が報告されている。

 「労働権法」を成立させた州は、中西部と南部が多いが、リーマンショック後から、かつては労働組合が強かったラストベルトの州でも「労働権法」が成立している。
 「労働権法」の趣旨は、企業活動が労組に縛られず自由に企業活動ができるようにして、あらたな雇用を生みださせることで雇用を増やすということにあり、その一方で労働組合は弱体化され労働賃金はあまり上がらないという反面もある。
 他方「労働権法」を導入せず、組合重視の州では、労働賃金の底上げを支援し、それによって労働者の消費を促進して、経済を活性化させるという趣旨がある。しかしここではその反面として労組が強いため、新たな企業が参入しにくく、従って新たな雇用を生みだすことが難しいということになる。
  ラストベルトの労働者はかつてアメリカ産業の中核であった自動車・鉄鋼など「ものづくり」企業の中心地だった頃には強い労組のもとで中産階級化した労働者たちがリッチな生活を許されていたが、その後世界の産業情勢が変化し、アメリカの「ものづくり産業」が衰退化し、リーマンショックをきっかけに失業者が急増し、新たな雇用を求める労働者が急増した。それが「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプを大統領に押し上げるパワーとなった。
 この両者の対立の最前線だったミズーリ州では最近住民投票で「労働権法」に「ノー」が突きつけられたそうだ。
 こうしたアメリカの労働者階級の動向の中で、その背景にあるのは、この40年間横ばい状態のアメリカの平均的労働賃金水準の中で、CA, WAなど西部諸州のIT産業を中核とした地域や、金融、サービス産業が多い東部のNY周辺の地域では賃金水準が高く、中西部や南部では低い状態が続いていたことがある。
 西部IT産業地帯ではおそらく、企業形態から見て優れた頭脳労働者としての外国人労働者の受け入れに積極的であり、労働者の権利が強いと思われる。しかしラストベルトや南部諸州では労働者の力は弱体化し、むしろ新規サービス業への参入が増えて、雇用を優先する労働者の意識のもとでは労組の存在が意味を成さなくなりつつあるのだろう。
  ミズーリがこのどちらの方向に行くのかは不明だが、どちらにしてもこうしたアメリカ社会の構造変化がアメリカの格差社会化を推進しているように思え、そしてその中で労働者階級同志の対立が鮮明化しているように見える。
 しかし、そこで考えねばいけないことは、表面的には、おそらくは西部IT産業の頭脳労働者たちなどが支持しているであろう民主党的「リベラル思想」と、南部諸州やラストベルトの労働者たちが支持しているであろう共和党的「アメリカ・ファースト」思想の対立の背後では、実はグローバル資本家たちとそれがバックアップする政治家たちによる支配階級の内部で起きつつある対立が察せられる。
  IT産業にその中心が移ったアメリカ資本の「価値増殖力」と旧産業体制が過去に築いてきた巨額の資本蓄積をグローバルマネーとして右から左へと動かすことで儲けを増やしていこうとする資本家たちとの間に確執であるようだ。つまり新たな労働力が生みだす価値による現在の資本増殖力と過去の資本の運用による資本増殖力の対立があるように思える。
  前者は国境を越えた労働力と市場の確保が必要であるため国際協調主義を主張し、後者は強敵中国を意識した国内産業保護を意識した保護貿易主義に傾きつつある。そしてそうした支配層の対立が政治的には「リベラル」とナショナリズムの対立の形をとり、その支配的イデオロギー間の対立がそれに染め上げられた労働者階級間の対立を生みだしていると言えないだろうか?
 ここでも労働者階級は自分たちを苦しめているものが本当は何なのか、まだ見えていないようだ。
 いま必要なのは、「強いリーダー」として資本家達を導き、自分たちに仕事と賃金を与えてくれる「ボス」ではなく、その資本家たちの論理によって労働者たちから奪われてしまっていた、「自分たちの仕事や生活を自分たち自身の手で作り上げていく権利と能力」を再び取り戻すことにあるのだ。
  そしてこうした支配的イデオロギーの虚偽を見破り労働者に本来の自分たちの立場を明らかにしていく、そのためにこそ労働組合の存在意義があるのではないだろうか?
 

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